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のだめカンタービレ4

101 名前:名無しさん@ピンキー[]:2005/07/05(火) 10:16:13 ID:Jcb4QdV0
アンブレ〜ラ〜!GJ!!

102 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/05(火) 19:08:48 ID:FQVzd/UT
おもエロいね
楽しく読めるよ
お疲れ様

103 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/07(木) 00:24:40 ID:2bKEsKna
ショコラ様まだかな〜

104 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/07(木) 17:26:07 ID:VHQ90U7G
そろそろショコラさんのお帰りでしょうか?
お待ちしておりますー。

105 名前:ショコラ[sage]:2005/07/09(土) 21:51:24 ID:3M6I/GYE
こんばんわー。ご無沙汰しました。帰国が遅れまして、本日、何とか生還致しました。
出国前に私の健康をご配慮を頂きました皆様、
また待っていて下さった方もいらした様で、とても感謝の気持ちで一杯です。
かなり浦島太郎状態ですが、のだめ?編を全部投下させて頂きます。

106 名前:「喪失」・90[sage]:2005/07/09(土) 21:52:38 ID:3M6I/GYE
先輩と峰くんが出掛けてしまった後、
私達はリビングで、私の記憶のある話題でしばらくの間また盛り上がっていた。
でもそれは主に、私がいかにマキちゃんのお弁当を盗み食いしていたか、だったのだけど・・・。

それでもマキちゃんはその事を、ひどく楽しそうに笑いながら話すので。
私はその顔を見ているだけでも、とても幸せな気持ちになっていた。


---久しぶりに、こんなに沢山笑った気がする・・・。


千代さんが淹れてくれた、ハーブティもとっても美味しくて・・・
ついつい時間が経つのを忘れて話し込んでしまった。
ふと気が付いて、リビングの時計に視線をやると、時計の針はもう二時過ぎを指していた。

「あ、マキちゃん。のだめ、3時から病院の予約があるので、そろそろ出掛けないといけないんデス。」
ためらいながら私がそう告げると、マキちゃんはすごく残念そうな顔をした。

「・・・じゃあ、のだめの病院前まで送るよー。確か駅前の方向だったでしょ?
 のだめ送ったら、それからわたし、このまま仕事に行くから。」
「そですか〜?いいんですか〜?じゃあ、一緒に行きましょう!!」

マキちゃんにしばらく待って貰って用意をすると、私達は千代さんが呼んでくれたタクシーに乗り込んだ。

107 名前:「喪失」・91[sage]:2005/07/09(土) 21:53:09 ID:3M6I/GYE
「さっきの千秋さまもタクシーだったけど・・・。のだめ、あんたいい生活してるねー!!」
「ほえー?でも、お金持ちなのは千秋先輩で、のだめじゃないデス!」
「そうだけど・・・。大学時代、のだめが千秋さまに、始終纏わり付いていたのは知っていたけどさー・・・。
 でもまさか本当に、あんたが千秋さまを陥落させるとは思わなかったわ・・・。」
マキちゃんはくくく、と何か思い出し笑いをしていた。

「そういえば、のだめが千秋さまを拾ったって話、あったなぁ〜。
 それからレイナとも言ってたのよ。”のだめ、おそるべし”ってね。ぷはははは。やっぱ、あんたすごいよ!」
「ひどいですヨ〜!のだめ、化けモンじゃありまセン!!」
「くくくく・・・。ごめんごめん。
 でもさ・・・のだめがちゃんと千秋さまに大事にされてるみたいで・・・
 女友達としてはそういうの見るの少し寂しいけど・・・でもやっぱ、嬉しいもんだよ?」

さっきまで笑いすぎて涙まで流していたマキちゃんが、ふと急に真顔になるとこちらに顔を向けた。
そしてマキちゃんは自分の右手で、上から包み込む様に私の左手をぎゅっと握り締めた。

「ねぇ、のだめ。」
「ハイ?」
「大事にされてるんだから・・・”その手”を離しちゃダメよ・・・?」
「・・・は?”その手”・・・デスか?」
「うん。”その手”・・・。」

---”その手”って・・・・・・何?

「え?その手?どの手?・・・・・・こ、この手?」
私がそう言って自分の両手を見ながら首を捻っていると、マキちゃんは”そのうち分かるよ”とだけ言った。
「むーーー!マキちゃん意地悪、デス!のだめにもちゃんと分かる様に言って下さい!」
「だーめ。自分でちゃんと考えんの!みんなの王子様だった千秋さまを独り占めしたバツよ!ふーんだっ!」
「がぼん・・・。」
「そうだ!・・のだめ、明日暇??」
話についていけない私をさっさと置き去りにして、マキちゃんは急に話題を変えた。

108 名前:「喪失」・92[sage]:2005/07/09(土) 21:53:43 ID:3M6I/GYE
「えと・・・。多分午前中に病院行ったら、午後は空いていると思いますケド?」

明日は午前中に予約した整形外科に行ったら、ついでに山口先生に顔を見せて・・・と思ってたから。
だからその後は、特に予定はなかったはずだ。

「ホント?じゃあさー午後から空けといてよ!
 ほら、のだめの好きなプリごろ太の恒例の夏の映画!明日から公開なのよ!」
「むきゃーーーー!!プリごろ太っーーー!!それっ!!ほ、ほんとデスかっ!?」

私が鼻息荒くマキちゃんにかぶりつくと、マキちゃんはあきれた顔をした。

「本当に好きなんだ・・・。」
「行きマス!!行きマス!!!むきゃーーー!ごろ太ぁーーー!!カズオぉーーー!!」
「分かった、分かったから・・・。
 のだめ、いい歳した女がタクシーの中でこっぱずかしいから少し落ち着きなさいよ・・・。
 レイナも明日仕事休みだって言うし、三人でさー見に行こ!その後久々に夕食でも一緒しない?」
「もきゃーーー!!しマス!!しマス!!一緒にごはんーー!!」
「じゃあさ、のだめにわたしの携帯の番号教えておくから。詳しい待ち合わせとかは後で連絡する!
 あ、のだめも携帯持ってるなら、番号教えてよ。」
「え、のだめの携帯ですカ?・・・持ってたかな?」

私はその時になって初めて、自分のお出かけバックの中をごそごそと見回した。
客間に置いてあった自分の荷物の中から引っ張り出してきたまま、それまでじっくり中を見ていなかったのだ。

「あ、ありマス、ありマス。きゃっほーー!のだめも携帯持ってましターー!!」
「のだめ・・・。携帯持ってるコトまで、忘れてんのね・・・。」
「あはは〜・・・。」

テントウ虫のブローチの付いたミニバックの底から、折り畳み式の携帯を取り出すと、パチンと開いた。
・・・しかしディスプレイは真っ暗なままだ。
試しに電源キーを長押ししてみたが、一向に電源が入る気配がない。

109 名前:「喪失」・93[sage]:2005/07/09(土) 21:54:17 ID:3M6I/GYE
「ぎゃぼ?電池が切れて・・・電源が・・・入りまセン??」
「そりゃー携帯の存在すら憶えてなかったんだから、充電切れしてるだろうね・・・。」
「はぅぅぅ・・・。のだめの番号、教えられないデス・・・。」
「まぁ後で充電してから、わたしの携帯に連絡してくれればいいから。」
「ハイ・・・。そうしますネ。」

その時、タクシーが病院のエントランスに滑り込むようにつけると、左側の扉がすっと開いた。
初老の運転手さんが振り向いて、私達に声を掛ける。

「お客様、着きましたよ?」
「あ、のだめ着いたよ。ちょっと待って、わたしが先に降りるから。」
先にマキちゃんが降りると、私に手を差し伸べてくれた。

「ほら。つかまって?身体痛くない?」
「ありがとーデス!大丈夫ですヨ〜。」
マキちゃんにつかまりながら私もタクシーを降りる。
「じゃあ、のだめ、また明日ね?」
「ハイ!絶対、絶〜〜対っ連絡しますカラっ!!」
「くくく。わかったわかった。待ってるから。」

再度涙目になりながらマキちゃんは笑うと、再びタクシーに乗り込んだ。
それを見た私は、慌てて運転手さんに千代さんから貰ったチケットを差し出した。

110 名前:「喪失」・94[sage]:2005/07/09(土) 21:55:23 ID:3M6I/GYE
「あ、タクシーの運転手さん。このチケットで。駅までこのまま行ってくだサイ!」
「え、のだめいいよー。わたしここから自分で払うよ?」
「いいんですヨ〜!どうせのだめのお金じゃないんですからぁー!
 こ・れ・は、千秋先輩のおごりデス!!むきゃ。」
「・・・のだめあんたって。」
「ほえー?何ですカ?」
「いや、何でもない。じゃあ、お言葉に甘えて。ありがとうー千秋さまー。」
「明日楽しみにしてマス!!」

バタン!とタクシーが左側の扉を閉めると、再び音も静かにゆっくりと走り出した。
マキちゃんはすぐに後ろを振り向いて笑顔を見せると、ゆっくりと”ま・た・ね!”と口を動かした。
私はそれを見て頷き、同じように口を動かして”ま・た・ね!”と言いながら手を振った。

それから車中から振り向いて手を振るマキちゃんの姿を捉えられなくなるまで、
私はエントランスにとどまって手を振り続けた。

111 名前:「喪失」・95[sage]:2005/07/09(土) 21:55:50 ID:3M6I/GYE
2時45分、ちょうど15分前に山口先生の診察室の前に着いた。
診察室前のソファに腰をかけて順番を待っていると、私より少し年上位の若い看護士が近づいてきた。

「野田・・・恵さん?」
「ハイ。そですけど?」
若い看護士はほっとした表情を見せると、にっこり笑った。

「良かった・・・!私、救急の時のあなたの担当だった者です。」
「あ、そなんですか?その節はお世話になりましタ!」
私はぺこりと頭を下げた。

「いえいえ、大事に至らなくて本当に良かったですね。体の方はもう大丈夫ですか?」
「ハイ。大分良くなりました。ありがとうございマス。」
「くれぐれもお大事になさって下さいね。今日ここに来たのは、実は・・・。」

そう言うと彼女は、ナース服のポケットから透明なジップの付いたビニル袋を取り出すと、私に差し出した。
袋の白く書き込める部分に目をやると、救急の日付と野田恵様、と私の名前がサインペンで書き込んであった。

「・・・これ。」
「ごめんなさい。あなたがこちらに運ばれてきた時に、身に着けていらしたネックレスです。
 金属だから検査前に、外させてもらったんです。」
看護士さんは申し訳なさそうに続けた。
「その後の私の引継ぎがよくなくて・・・これだけそのままずっと救急でお預かりしたままになっていたんです。
 大切な貴重品だったのでしょう?本当に申し訳ありませんでした。」

彼女は深く腰を折りながら、私に何度も謝る。
袋の中には・・・赤いハート型の宝石が付いたネックレスが丁寧に入れてあった。

112 名前:「喪失」・96[sage]:2005/07/09(土) 21:56:18 ID:3M6I/GYE
「ネックレス・・・。」
「とても可愛いデザインですね!それ、若い女性に人気のブランドですよね?ご自分で買われたんですか?」
「いえ・・・。違いマス・・・。」
「そうですよね〜!やっぱり彼氏からのプレゼント、ですよね〜?素敵!いいなぁ〜。」
「・・・・・・。」
ネックレスをじっと見ている私をひとしきり羨ましがると、
看護士さんは再度、何度も謝罪の言葉を口にして帰って行った。


---かわいー・・・。
---ハートのルビーだー。

華奢な鎖の間から、ハートモチーフの紅い宝石が煌めくように覗いている。
・・・まだ、予約時間まで10分ある。
私はそれを袋から取り出すと、トイレの方向へ急いで足を向けた。

トイレに入ると、私は一番奥にある洗面台の前に立った。
ちょっとためらった後・・・思い切ってそのネックレスを付けてみる。
するとちょうど私の喉の少し窪んだ所に、まるで最初からそこにあったかの様に・・・
ハート型のルビーはちょこん、と収まった。

「きれー・・・。キラキラ、してマス・・・。」

ふと、ネックレスを巻いた喉元だけでなく、ネックレスをした自分自身を見ようと鏡の中の視線を上げた。

---ズキン・・・と胸が痛んだ。

そこにいたのは・・・私の知らない私だった。

113 名前:「喪失」・97[sage]:2005/07/09(土) 21:56:44 ID:3M6I/GYE
・・・しばらくの間、上手く呼吸が出来なかった。

鏡の中には・・・見たこともない位変な顔をした、自分がうつっている。
何故だか分からないけど・・・こうしている事が、もの凄く罪悪・・・のような気がした。

そう思った途端、急に目がチクチクしてきて、更にみぞおちの辺りがキリキリ痛くなってくる。
私は震える手で、慌ててネックレスを外した。
そしてそれを、自分の手のひらの上に乗せ、じっと見た。

一目見ただけでも、可憐さの中にも洗練されたデザインが目を惹くネックレス・・・。
若い女性に人気のブランド・・・とさっきの看護士さんが言っていたように、
高価な品である事は、私にでもすぐに分かった。
漫画ばっかり買っていつも金欠で、まだ学生の自分がこの様な物を、自分で購入するとはとても思えない。

---だから・・・これはきっと・・・千秋先輩から・・・。
---今は此処にいない・・・失ってしまったもう一人の私への・・・プレゼント・・・。

「そっか・・・。」
いつの間にか独り言が勝手に口を付いて出ていた。

「ネックレスさん、自分の持ち主以外の人にされるの、イヤなんですネ・・・?」
そっと鎖を指でなぞってみる。
「ゴメンナサイ・・・。ネックレスさんの持ち主・・・今の”のだめ”じゃない、ですよネ・・・?」
涙で前が滲んでよく見えないけど、ハートのルビーも一緒に泣いているみたいに、ゆらゆら揺れていた。

私はさっきのビニル袋にネックレスを再び丁寧にしまうと、バックの底の方へそれをぐっと押し込んだ。

114 名前:「喪失」・98[sage]:2005/07/09(土) 21:57:18 ID:3M6I/GYE
「調子はどうですか?昨晩はよく眠れましたか?」
「ハイ。ぐっすり眠れました。やっぱり病院より落ち着くみたいデス!」

山口先生の診察が始まった。先生は相変わらず穏やかな表情で、私を優しく見つめていた。
「そうそう。救急の方からネックレス、受け取られましたか?」
「ハイ!さっき、ちゃんと受け取りましたヨ〜。なんか、かえって気を遣わせちゃったみたいで・・・。
 悪い事をしちゃいましタ・・・。」
「いえ。これは間違いなく、うちの不手際ですから。私からもお詫びさせて下さい。」
先生はそう言って頭を下げた。

「本当に、いいんデス、山口先生!ちゃんと返してもらったんですから!」
私がアタフタと慌てふためいてそう付け加えると、先生はふっ・・・と微笑した。
「のだめちゃんは本当にいいコ、ですね・・・。でも、いいコにしすぎると、疲れちゃう時もありますからね?」
「ほえー?」
「・・・記憶の方はどうですか?」
「全然思い出せてまセン。がぼん・・・。」
このまま思い出すことなかったら・・・と心配していた私にとって、それは一番辛い質問だった。
「そうですか・・・。うちの方の臨床心理士とも色々と相談したのですが・・・。一つ聞いてもよろしいですか?」
「ハイ?何でしょうカ?」
「退院する前の深夜、のだめちゃん・・・あのトイピアノの前に立っていましたよね?」
「・・・え。」
先生が急に、あの夜の話題を振ってきたので、私はひどくうろたえた。

「あ、あれは、ホントにトイレの帰りで・・・涼んでいただけで・・・。別に深い意味はありまセン!!」
「・・・私にはそうは見えませんでしたよ?あの後、しばらくして気が付いたんです。
 あの夜あなたは何か・・・あのトイピアノに話しかけていた。・・・違いますか?」

先生は相変わらず柔和な表情を崩していなかったけれど、
眼鏡の奥から光る瞳は、とても真剣な光を帯びていて・・・。

だから私も、ごまかさないでちゃんと答えなくてはいけないと思った。

115 名前:「喪失」・99[sage]:2005/07/09(土) 21:59:33 ID:3M6I/GYE
「その・・・。その・・・。」
「はい。」
「・・・チョト不安だったんです・・・。」
「うん、不安・・・。」
「のだめ、おうちに帰れるって聞いて、最初はすご〜く嬉しかったんですケド・・・。
 よく考えたら、自分のおうちじゃなくて千秋先輩のおうちで。
 だって、のだめにとっては病院と同じ位、そこは知らない場所に変わりなかったし・・・。」
「ええ、今ののだめちゃんには確かにそうでしたね・・・。」
山口先生は私の話に頷き、相槌を打っていた。

「・・・千秋先輩とか、先輩の家族の人に良くしてもらってるのはすごく分かるんですケド、
 おうちに行っても、皆サンとうまくやっていけるかなって・・・。
 それにこれから更にまた、のだめの知らない人達に・・・でも!のだめの事は知っている人達に、
 いっぱい出会わなきゃならないのかなって・・・ホント急に、色々なコトが心配になっちゃって・・・。」
「・・・それに、千秋さんと過ごす時間も、病院にいらした時よりも多くなりますしね。」

先生が私の一番言いにくいコトを先に言ってくれたので、少し気が楽になって、私は説明を続けた。

116 名前:「喪失」・100[sage]:2005/07/09(土) 22:00:02 ID:3M6I/GYE
「ハイ・・・。そなんです。その事も気になって・・・。そしたら全然眠れなくなっちゃって・・・。
 ふと、横を見たら、あのピアノが目に付いたんデス・・・。」
「千秋さんがのだめちゃんに贈られた、あの素敵なアンティークのトイピアノですね?」
「のだめ・・・実は自分が・・・ピアノの勉強でパリに留学してる、ってコトもまだピンときてなくて・・・。
 でも、ピアノだけはのだめの知りたいコト、全部知っているような気がしたんデス。」
「うん・・・。」
「だからあの時、ピアノに聞いてみたんデス。のだめ、どうして此処に居るの・・・?って・・・。」
「・・・教えてくれましたか?」
「ダメでした・・・。えへ、自分で考えろって事なんですかネ?のだめ、考えるの苦手なんだけどな・・・。あはは。」
「・・・そうでしたか。」
「でも、三善さんちはとても居心地いいですし・・・。
 みんな良くしてくれマスし、のだめの杞憂に終わりましたヨ。も、平気デス!」
「ええ。」

山口先生が、まだ何か探る様な視線をよこすので、私は念を押した。

「・・・本当ですヨ?」
「わかりました。正直に話してくれてありがとう、のだめちゃん。」
先生はようやく口元に笑みを浮かべると、机の中から紙を取り出した。

117 名前:「喪失」・101[sage]:2005/07/09(土) 22:00:32 ID:3M6I/GYE
「実はのだめちゃんにね、お願いがあるんですよ?」
「のだめに?お願いデスか?」
「今週の土曜日、入院病棟の方のエントランスにあるミニステージで、
 病院付属の看護科の生徒達が、小児科の子供達やお年寄りの患者さん達の為に、
 ちょっとした演奏会や劇を行うのです。月一度、こういう催しがあるんですよ。」
「ふぉぉぉーー!演奏会や劇ですかぁー!」
「それで、是非のだめちゃんも、ピアノでステージに上がってみませんか?」
「ええ!?の、のだめがですカ?」
「はい。子供達にその事を話しましたら、皆とても喜んでおりましてね。
 のだめちゃんのピアノに合わせて歌うんだって・・・ほら、これ、リクエストを書いてよこしたんですよ。」

先生から渡された紙には、子供達に昨日弾いてあげた、アニメの曲や童謡がびっしりと書き込んである。

「のだめちゃんがピアノを弾いて子供達と歌っている所を、小児科の主任のナースも見てましてね。
 是非お願いしたい、と彼女はこの紙を持って依頼しに、直接私の所に来たのです。」
「ほわー。のだめが、みんなの前でピアノ弾くんですカー・・・。」
「私もね。実はのだめちゃんのピアノを聴いてみたい一人なんですよ。
 でも、ピアノを弾くとまだ身体の方が・・・
 肩とか腕が痛む様であれば、無理なさらず断って下さって構わないのですよ?」

山口先生は、”身体の事が、今は一番大事ですから”・・・と付け加えた。

「いえ、ピアノを弾く位ならもう大丈夫デス。
 早いパッセージの多い曲なんかを弾かなければ、全然問題ないデス。」
「そうですか・・・?どうでしょうか。一応時間は、土曜日の午後2時過ぎ位を予定しているんですが・・・。」
「土曜日・・・明後日ですかー・・・。」
ふと視線を下に落とすと、リクエストのメモが二枚あることに気が付いた。

118 名前:「喪失」・102[sage]:2005/07/09(土) 22:02:19 ID:3M6I/GYE
「あれ?二枚ある?これって・・・クラシックの曲名・・・?」
「あははは。恥ずかしながら、スタッフの中でものだめちゃんは人気でして。
 是非このクラシック曲を生で聴きたいという声が・・・。それは大人達からのリクエストなんですよ。」

先生は恥ずかしそうに頭を掻いた。

「ショパンの革命・・・英雄ポロネーズ・・・ドビュッシーの亜麻色の髪の乙女・・・ベトベンの月光・・・
 あ、リストのラ・カンパネラ・・・。他にもイッパイ・・・。あは〜!全部有名な曲ばっかりですネ!」
「子供達の親御さん達にも聞いてみたのですが、ああ、こんな曲もあったなって再確認したりして・・・。
 結構クラシックの有名な曲って沢山あるのですね。のだめちゃんのお陰でとてもいいきっかけになりました。」
「そんな事言われるとのだめ、なんか照れちゃいますヨ・・・。」
先生にそう言われた事がとても気恥ずかしくて、私は両手の人差し指をツンツンさせた。

「最初の20分を子供達の為の演奏に、次の20分を大人達の為の演奏に。
 全部で40分位を予定しているのですが、どうでしょうか?」
「それだと・・・。クラシックの方は有名な部分を短めにアレンジするとかしないと、あまり曲数弾けないデス。」
「もちろん、そういうのはのだめちゃんにおまかせしますよ?」
「むー・・・。」

悩んでる私を勇気付けるように、先生は大きな両手でやんわりと私の両腕を包みこんだ。
「のだめちゃん。
 さっきあなたが話してくれた事、あれで私の考えは間違っていなかった・・・と、今とても思っています。
 あなたには例えば・・・催眠療法など、そういったアプローチは、今の所治療方針に入れない事にしたんです。」
「催眠って、あの、”アナタは眠くなーる・・・眠くなーる・・・”とかっていうヤツですカ?」
「ええ、まぁ・・・。そういったトラウマケア等ですね。
 私はね、あなたにとって一番よい治療方法は、ピアノを弾くこと、ではないかと考えたのです。
 千秋さんからもヒントを頂きました。」
「え?千秋先輩にですか?」
「そうですよ。
 だから今回のステージも、のだめちゃんにとてもいい効果があるんじゃないかなって密かに企んでいるのです。」
先生は悪戯っぽい目をして、私を覗き込んだ。

119 名前:「喪失」・103[sage]:2005/07/09(土) 22:02:47 ID:3M6I/GYE
「どうですか?もう一度、ピアノに聞いてみませんか?」
「もう一度・・・?」
「ええ、何度もチャレンジしたら、ピアノも根負けして、教えてくれるかもしれませんよ?」
「あはは〜!山口先生、面白いコト言いますネ!」
先生の発言に私が笑うと、先生も一緒に破顔した。

「山口先生、わかりました。でも、一晩考えさせて下サイ。千秋先輩にも相談したいし・・・。」
「そうですね。それがいいかもしれません。あ、千秋さんと言えば・・・そうそう!」
先生は右横に重ねていた書類のクリアファイルの束をくくると、その中から一つを引き出した。

「これ・・・昨日の毎朝新聞の夕刊と、今朝の東経新聞の朝刊に載っていたんですよ!
 いやー、千秋さんってとても凄い方だったのですね。私、初めて知りました。」
先生は新聞の切抜きを数点、私の前の机の上に置いた。

「申し訳ありませんでした・・・私、クラシックに疎くて・・・。
 でも、これを読んで本当に驚きました。千秋さん、クラシック界では若き貴公子・・・と呼ばれているとか。
 それにマエストロ・シュトレーゼマンの唯一の弟子なんですね。凄い・・・!
 シュトレーゼマンは私でも知ってる位、有名な指揮者ですからね。」

切抜きには、端正な顔の千秋先輩のイメージフォトの横に、プロフィールが簡単に紹介されている。

[桃ヶ丘音楽大学ピアノ科在学中から世界の巨匠、マエストロ・シュトレーゼマンに師事]
[その後首席で卒業後、同大学の院を経て欧州へ留学]
[プラティニ指揮者コンクールで優勝]
[現在は欧州を活動拠点に、パリにあるルー・マルレ・オケの常任を務める]


---それは私も初めて知る事ばかり、だった・・・。

120 名前:「喪失」・104[sage]:2005/07/09(土) 22:03:38 ID:3M6I/GYE
記事は、先輩がインタビュアーの質問に答える、という形式で・・・。
今回はコンクール優勝の凱旋も兼ね、
日本で先輩が中心となって結成された、オケの公演に招かれたことが冒頭に紹介されていた。

「千秋さんのこの記事で、うちの医局は今日大騒ぎでしてね。
 若い子達に聞いたら、クラシックのファン以外にも、特に若い女性に今絶大な人気があるとか・・・。
 看護士の一人が今日これを買ってきたんですよ。」
先生は私に一冊の雑誌を目の前に差し出した。それは男性向けのファッション誌だった。

表紙には・・・パリッとしたスーツを着た、二人の男性。

ブラックのペンシルストライプのスーツを着て、右側に立っているのは千秋先輩だ。
その横にいる先輩より少し背が低い、
光沢のあるチャコールグレイの細身のスーツを着た左側の男性は、私の知らない人だった。

先輩は少し見下ろしがちの伏目をしていて、クールだけど、どこかもの凄く艶っぽい表情していた。
隣の知らない男性は逆に、こちらを射抜くような鋭い眼光を発していて・・・
口元ににやり、と浮かべた微笑がとてもセクシーだった。

「千秋先輩だぁー・・・しゅごい・・・かっこいーー・・・。」
「左の方は、千秋さんが初代を務められたオケの現任指揮者で、松田さん、という方だそうです。
 この二人のビジュアルの組み合わせが、今すごく話題になっているとか・・・。
 確かに男の私から見ても、くらくらきちゃいますよ。」

山口先生がそう言って笑うのを、でも・・・私はどこか上の空で聞いていた。

---千秋先輩は確かに格好いいけど・・・。
---はじめて会った時からもちろん今でも、こんな素敵な人がのだめの彼氏・・・なんて信じれないくらいに。
---でも、のだめに見せてくれる、時々照れたように笑う笑顔が、すっごく可愛くて・・・優しくて・・・。

だからこんな表情をした千秋先輩は・・・私にはまるでどこか遠くの、別の存在みたいに思えて仕方なかった。

121 名前:「喪失」・105[sage]:2005/07/09(土) 22:04:08 ID:3M6I/GYE
「でもなんか・・・のだめの知っている千秋先輩じゃないみたいデス・・・。」
そう小さく呟くと、山口先生もそれに同意するように頷いた。
「ええ、そうですね。私も同じ事思っておりました。
 あなたの前の千秋さんは、あなたを大事に思い気遣う、ただの一人の優しい男性、って感じでしたからね。」
先生は新聞の切抜きをコピーしたものを、私の前に差し出した。

「良かったらどうぞ・・・。のだめちゃん、さっきまじまじと読んでいらしたので。
 必要ないかとも思ったのですけれど、でも用意しておいて良かったです。」
「あ、ありがとございます・・・。」
私は先生にお礼を言いながら、コピーを受け取った。

「雑誌は・・・。」
「あ、のだめ、帰り本屋でちゃんと自分で買って帰りマス!これはお返しします。」
そう言いながら渡されていた雑誌を、山口先生の机の上に置いた。
「すみません。本当はこれも差し上げたい位なんですけれど。私が購入したものではないので・・・。」
先生は申し訳なさそうに私に謝った。
「いいんデス、いいんデス!あ、でも雑誌の名前だけ控えさせて下さい。」
私は先生からメモ紙とボールペンを借りると、千秋先輩が載っている雑誌の名前を書き取った。

「ありがとうございました。土曜日のコト、山口先生にさっき言われたコト、のだめ、よく考えて見ますネ。」
「だめですよ、のだめちゃん。もっと気楽〜に考えて下さい。ね?」
「・・・はい。」
「では、明日は整形外科の方でしたね?診察が終わられましたら、こちらに声を掛けて下さい。
 私は明日は一日ここで勤務しておりますので。のだめちゃんからのいいお返事、お待ちしております。」
「ハイ!」
私は貰ったコピーを丁寧にたたんでバックにしまうと、先生に再度お礼を言って、診察室を後にした。

122 名前:「喪失」・106[sage]:2005/07/09(土) 22:04:35 ID:3M6I/GYE
帰り道、すぐにタクシーには乗らないで、私は病院から少し歩いて、駅前の方へ出た。

一角にある大型書店を見つけると、早速さっきのメモ紙を手に、あの雑誌を探し始める。
『男性誌』、と書かれたコーナーに向かうと、
すぐに一番手前に、目立つ様に平積されている先輩のあの表紙が目に入った。

---あった・・・!

他のコーナーも軽く見回してみると、
柱の向こう側に置いてある情報誌のコーナーにも、千秋先輩と松田さんが表紙の雑誌があった。

---千秋先輩・・・有名だったんですネ・・・。

そう一人ごちながら、他の雑誌の棚の間を、一通りぶらぶらと歩いてみる。
しばらくそうしてからさっきの男性誌のコーナーの前に戻ると、
女子高生位の制服を着た女の子が三人、あの雑誌を手に取り、ページを捲りながら何やら盛り上がっていた。

「千秋真一、超かっこいーよね!今、帰国してるんだって。」
「えー、あたし、こっちの松田さんの方が好きー。大人の男って感じじゃない?」
「私ねー、千秋真一が振ったR☆Sオケ。兄貴と聴きに行った事あるんだけど、すごいよかったよー。」

聴きに行った、と話す女の子は、肩から楽器を入れたと思われるショルダーバックをかけていた。
大きさからいって、フルートではないかと私は感じた。

「マミ、吹奏楽部だもんねー。確か音大目指してるんだっけ。なに、千秋真一の影響?」
「あーちょっとあるかも。」
「あたしこれ、買っちゃおっかなー。マミも買う?」
「うん買うー!兄貴も買ってきてって言ってたし。」

そうワイワイ言いながら、二人の女子高生は雑誌を手に取り、レジの方へ歩いて行った。

123 名前:「喪失」・107[sage]:2005/07/09(土) 22:05:00 ID:3M6I/GYE
彼女達が書店から居なくなったのを確認し、更にしばらく時間を置いてから、私は再びあの雑誌の前に立った。

けれど。
それを手にする事も、ページを捲る事も、今の私にはひどく困難な事の様だった。
何故だか分からないけど、それ以上は、どうしても体が動かないのだ。

それでもようやく何とかして・・・
人差し指で表紙の千秋先輩の口元を、そっ・・・と触れてみた。

「千秋先輩・・・のだめ・・・本当に先輩の彼女・・・なんですカ?」

周りの人からいぶかしむような視線が注がれているのに気が付き、私ははっと我に返った。
心の中で言ったつもりだったのに、いつの間にか大きな独り言を言ってしまったみたいだ。
まるで私を奇異な人を見るかの様な・・・そんな表情で、周りに居た人達は眉を顰めている。
突き刺す様なその凝視に耐えられなくて、私は慌ててその場から逃げ出した。

・・・本屋から飛び出すその間。
後ろからかすかに漏れ聞こえる失笑が、よりいっそう私を惨めな気分にさせた・・・。

その後、帰り道にあったコンビニにも何軒か入り、あの雑誌を買おうとしたのだけれど・・・
どうしてもそれができなくて、結局、私はあの雑誌の購入を断念した。

途中で流していたタクシーをつかまえると、私はそのまま帰路についた。

124 名前:「喪失」・108[sage]:2005/07/09(土) 22:05:26 ID:3M6I/GYE
夕ご飯を俊君や由衣子ちゃん達と一緒に済ませ、リビングでテレビを見てひと時くつろいでいると・・・
由衣子ちゃんが雑誌や新聞をいっぱい手にして、リビングに入ってきた。

「見て見て〜のだめちゃん!真兄の載ってる雑誌、こんなにあるんだよ〜!」
嬉しそうにはしゃぎながら、由衣子ちゃんは私の前のリビングテーブルにどさっ!とその束を置いた。
「すごいよね!どの真兄ちゃまもすっごいかっこいーの!由衣子、全部二冊ずつ買っちゃった。」
「二冊ずつ買ってどうすんの?」
俊君が不思議そうに由衣子ちゃんに尋ねた。
「んもー!俊兄には何にもわかってないんだからぁー!
 一冊は保存用!で、もう一冊は観賞と貸し出し用!ねーのだめちゃん。」
「あはは〜。由衣子ちゃん、千秋先輩の大ファンなんですネ?」
「モチロン!真兄ちゃまは由衣子の憧れの人だもん!あ、のだめちゃんも雑誌読む?」

古いものから新しいものまで、由衣子ちゃんが雑誌を並べ始めた。
ふと、さっきのあの雑誌もその中にあるのに気がついた。

・・・さっきの苦々しい出来事が瞬間的にフラッシュバックして、私は慌てて立ち上がった。

「あ!のだめ、明日学校の友達と映画を見に行く約束をしてて、電話しなくちゃいけないんでしタ!
 ちょっと、電話してきますネ〜!」

由衣子ちゃんが少し不審な顔をして私を見上げるのに目を逸らして、急いで客間の方へ向かった。

125 名前:「喪失」・109[sage]:2005/07/09(土) 22:05:52 ID:3M6I/GYE
客間に戻り、机の上に置いてある携帯に手を伸ばすと、充電器からそれを取り外した。
夕ご飯を食べる前から充電をし始めていたので、今度は電源キーを押すとちゃんと電源が入った。

・・・自分の電話番号を確認し、マキちゃんに電話をかける。
マキちゃんは午後1時に、映画館が入っている大きなステーションビルがある駅を、待ち合わせ場所に指定した。
私はメモを取り、明日楽しみにしている事を告げると、マキちゃんは電話口でもまた笑っていた。

マキちゃんとの電話を切って、携帯を再び充電器に戻す。
はぁーと大きく息を吐いて、私はソファに思い切りぼふっ!と座り込んだ。

---このモヤモヤとした気持ちは一体なんだろう・・・。

あの事故から随分と経つのに、私の記憶は一向に戻る兆しがない。
少しでも何か思い出す事があれば、それだけでも随分と勇気付けられるのに・・・。
誰を見ても、誰と話をしても、何も感じる事がない・・・のだ。
まるで・・・最初からそんな記憶はなかったみたいに・・・。

千秋先輩の事をこんなに思い出したいのに・・・全く思い出せない自分が腹立たしくて・・・哀しかった。

---先輩の顔が見たい・・・。
---先輩の口からちゃんと、のだめは先輩の何なのか・・・言って欲しいんデス・・・。

私は思い立ち、客間を出て廊下を辿り先輩の部屋の前まで行くと、軽くノックしてみる。
返事は・・・やっぱりない。
今日は遅くなるから・・・と今朝先輩が言っていたように、まだ家に帰ってきていないのは明らかだった。

126 名前:「喪失」・110[sage]:2005/07/09(土) 22:06:18 ID:3M6I/GYE
先輩の部屋のドアをそっと開けると、案の定真っ暗だった。
暗がりの中で明かりのスイッチを探して点けると、
シンプルにレイアウトされた、男性らしい部屋の様子が浮かび上がった。

・・・本棚には、沢山の音楽関係の本。
机の上には、総譜やその資料と思われるものが散乱していて、飲みかけのコーヒーが一客置いてあった。

私は机の上から何も書いてないレポート用紙を見つけると、
側においてあったペンで、先輩宛に書き置きを残した。

   
   千秋先輩へ
   
   
   先輩にお話ししたい事があるので、帰ったらのだめの部屋まで来てください。
   
   寝ないで待っています。もし寝てても、起こしてください。
                      
                                  のだめ

127 名前:「喪失」・111[sage]:2005/07/09(土) 22:06:45 ID:3M6I/GYE
先輩の部屋を出ると、ちょうど二階に上がって来た由衣子ちゃんと出会った。

「あれーのだめちゃん。廊下で・・・こんな所で何してたの?」
「えへ・・・。ちょっと三善さんち☆探検!してましタ。」
「あはは〜何ソレ!そうだ。お友達への電話は終わったの?」
「ハイ!電話終わりましたヨ〜。病院も行くから、明日ののだめは大忙しデス!」
「そっかーよかったねー!じゃあさ、そろそろ、由衣子とお風呂に入らないー?」
「ハイ!今日もよろしくお願いしますネ。」
「うん!じゃあ、10分後ね。」

昨日と同じ様に由衣子ちゃんとお風呂で待ち合わせすると、用意の為に客間の方へ戻った。

お風呂からあがると・・・
その晩も由衣子ちゃんがやっぱり私と一緒に寝たい言うので、客間のベットで二人して寝ころんだ。

自分の枕を抱いて、いつの間にかスヤスヤと安らかな寝息をたてた由衣子ちゃんを見つめながら。
そうして千秋先輩の帰りを、随分待っていたのだが、結局いつの間にか自分も一緒に眠ってしまい・・・

先輩が夜半過ぎに帰宅したことに、私は気がつかなかった・・・。

128 名前:「喪失」・112[sage]:2005/07/09(土) 22:07:09 ID:3M6I/GYE
翌朝私が目覚めると、先輩はすでに起きていて、リビングでコーヒーを飲んでいた。
ソファに深く腰をかけながら遠くを見つめているその後ろ姿だけで、先輩がかなり疲れているのがわかった。
声をかけるのを少し憚られたが、数秒先輩の方が先に気がついて、私に振り返った。

「…ああ、起きたのか。おはよ。」
「先輩、昨日は随分遅かったんですね。すみません…。待ってたんですケド、つい寝てしまって…。」
「別に・・・。先に寝てろ、と言ったのは俺の方だし。」
「でも、起こしてくれたらよかったのに…。手紙・・・読んでくれなかったんですカ?」
私は俯きながらぼそぼそと呟いた。

「読んだけど・・・。でも、本当に遅い時間だったから。・・・別に無視したわけじゃない。」
つっけんどんな先輩の言い方がらしくなくって、私は急に心配になった。
「もしかして先輩、寝てないんじゃ…。」
「・・・少しは休んだから平気。」
「あまり無理をして身体・・・こわさない様にしてくださいネ・・・?」
「何言ってんだ。お前の方こそ、早く身体治せ。それより手紙に書いてあった話したい事って・・・何?」
「あ、話・・・。その・・・。」

私が戸惑っていると、先輩は一瞬やるせない表情を見せた。
が、何かを隠すようにすぐにその目は用心深く無表情になった。

「何か言いたい事があるんだろ・・・?」

そんな風に突き放すように言われたら、
昨日話したかった事・・・聞きたかった事・・・全部、私は言えなくなってしまった。

129 名前:「喪失」・113[sage]:2005/07/09(土) 22:07:35 ID:3M6I/GYE
「あの・・・今日のだめ、マキちゃん達とプリごろ太の映画を見に行くんデス。今日から公開で・・・。」
「・・・プリごろ太・・・。」
「その後、夕ご飯を一緒に食べようって約束したんですけど、行ってもいいデスか・・・?」
「・・・話したい事って、その事?」
「えと・・・。ハイ・・・。」
先輩は呆れた様にハァ・・・と溜め息をつくと、かぶりを振った。
「別にそんな事・・・俺にワザワザ断らなくてもいいから・・・。ま、楽しんでこいよ。」
低い声でそう言いながらソファから立ち上がると、千秋先輩は前髪をかき上げた。

濡れた黒曜石を思わせる漆黒の瞳は充血し、溜まった疲労が端正な頬に翳を落としていた。
私は二階の自室へ歩いていこうとする先輩のジャケットの袖を、無意識に慌てて掴んでいた。

「あ、あのっ…!」
「何・・・?まだ何かあンのか・・・?」

肩越しに振り返った先輩の顔は、見た事もないくらい不機嫌だった。
その様な先輩の態度に驚いた私は、思わず口に出そうとした言葉を飲み込んでしまった。

「いえ・・・。何でも・・・ありまセン・・・。」

私が先輩の裾をぱっと離すと、先輩はそのままこちらに視線もくれないで、リビングから出て行ってしまった。
私は暫く呆然とそこに佇んでいたが、朝食の準備が出来たと私の名前を呼ぶ千代さんの声に我に返り、
ダイニングルームへ重い足を向けた。

130 名前:「喪失」・114[sage]:2005/07/09(土) 22:07:59 ID:3M6I/GYE
---山口先生に頼まれた、土曜日のピアノのミニコンサートの話も、先輩に相談できなかった・・・。

千代さんが卵を焼いている間、私はさっきまでの先輩とのやり取りを思い出していた。
先生が指摘した様に、やっぱり病院に居た時とは違って・・・千秋先輩と過ごす時間が多くなって・・・。

・・・先程の先輩は、昨日までの優しかった先輩が嘘の様に、よそよそしく、どこか・・・冷淡だった。
でももしかしたら・・・あれが本来の千秋先輩なのかもしれない。
怪我をした私を気遣って、わざと無理をして、優しくしてくれていただけなのかもしれない・・・。

---でも・・・。でも・・・。

そんな事を止めどもなく、悶々と考えていると、千秋先輩が食堂に入ってきた。
昨日と同じ様に私の左隣に席を取ると、手に持っていたバックをその隣の空いた椅子の上に置いた。
私はまた食事の指図をされるのかと思い、
更に先程の先輩の態度と相まって緊張が最高潮に達し、思わず身体を固くした。

「のだめ・・・。」
「ハイ・・・。」
先輩は窺うように・・・小さくこぼした。
「さっきはごめん・・・な。」
「・・・え?」
「その・・・仕事が自分が思ったように、上手くいってなくて・・・苛ついてて・・・お前当たった・・・。」
「・・・・・・。」
「のだめ、本当にごめんな・・・。悪かった・・・。俺・・・最低だな・・・。」
「・・・・・・。」
先輩は自嘲的に笑った。
先輩からそんな事を言われると思わなかった私は、混乱して言葉に詰まってしまった。

131 名前:「喪失」・115[sage]:2005/07/09(土) 22:08:43 ID:3M6I/GYE
「映画・・・楽しんでこいよ。でも、あまり遅くならない様に・・・。身体、まだ完全に良くなってないんだからな?」先輩は目を伏せて優しく私に囁いた。それはいつもの先輩の声色だった。
「俺、今日はゲネプロだから、忙しくて電話に出れないけど・・・。
 映画館でもレストランでも、移動する時は必ず母さんか、千代さんに電話して?・・・心配だから。」
「・・・ハイ。分かりました。」
「それから・・・今日も夜遅くまで仕事入ってるから、また遅くなる。先にちゃんと寝てて・・・。」

先輩の・・・私への配慮のにじむ柔らかな表情が、先程の先輩の態度と全く反していて・・・
私は余計に戸惑いを隠せなかった。

「じゃあ、俺行って来るな・・・。」
出掛ける、という先輩を見送ろうとして立ち上がりかけた私を、先輩はやんわりと制した。  

「あ、見送りはいいから・・・。お前はちゃんと朝飯食ってろ。」 
「・・・ハイ。」
千秋先輩は、ふと・・・何か思いつめたような瞳で私を凝視した。
「あの、さ・・・お前・・・その、携帯・・・。」
「・・・携帯?」
私は先輩の言葉に不思議に思ってそう尋ねると、先輩は慌てて首を振り、私から視線を外した。
「いや・・・。何でもない・・・。それなら・・・別にいいんだ・・・。」
「・・・・・・?」
「ホント・・・何でもない・・・。」
どこか念を押すように、先輩はそう言った。

132 名前:「喪失」・116[sage]:2005/07/09(土) 22:09:20 ID:3M6I/GYE
まだ不思議そうに見上げる私の右頬に、先輩はそっ・・・と手を寄せ、頬にかかっていた私の髪を耳に掛けた。
優しく、どこか甘いその仕草に、私は頬が急激に高潮するのを感じていた。

---キス・・・される・・・?

先輩は私の右頬を優しく数回撫でると、ポンポンと今度は手の甲で触れた。

「良かったな・・・。あと、残らないみたいだ・・・。」

擦りむいた右頬の事を言ったのだと分かった瞬間、私は意識しすぎた自分が猛烈に恥ずかしくなった。
勝手に一人で先走ったこの状況に耐え切れなくて、思わず顔を伏せてしまった。
「・・・じゃあな。行ってくる。」

先輩はどう思ったか分からなかったけど、私は恥ずかしさのあまり、食堂を出て行く先輩の後姿も見れなかった。

133 名前:「喪失」・117[sage]:2005/07/09(土) 22:12:41 ID:3M6I/GYE
部屋に戻り、病院に行く用意をしていると、昨晩から携帯を充電器に入れたままだったのに気がついた。
充電ランプはとっくに消えている。

「ふぉぉぉ〜!これでしばらくは大丈夫ですネ!」

独り言を言いながら携帯をパチンと開くと、新着メールが1件入ってるのに気がついた。

---誰だろう・・・?

そう疑問に思いながらメール画面をたどっていくと、差出人は・・・千秋先輩だった。

---件名は、Re:?・・・私からのメールの返信??

不思議に思いながらも、メール本文を慌てて開く。
しかしそれを読んで私は・・・しばらくの間動けなかった。

 ”Re:

  俺も早く会いたい。
  のだめ。今、何処にいるんだ・・・?”


---それはとても・・・哀しいくらいにとても・・・短い文章・・・だった。

134 名前:「喪失」・118[sage]:2005/07/09(土) 22:13:56 ID:3M6I/GYE
私が送ったと見られるメールの本文も、震える手で確認する。
数日前に送ったと見られる私のメールの最後には、”先輩、早く会いたいです。”と結んであった。
それはまだ記憶を失う前の・・・もう一人の私、からの最後のメールだった・・・。

携帯に残されたいたメールのやりとりをそのまま読んでいると、
それは私達がかつて、恋人関係にあった事を確かに示していた。

ふとさっきの先輩のメールの送信日時を見てみると・・・
それは昨日の夜12時54分になっていた。

私はそれを知って・・・すべてを理解し、初めて大声を上げて一人で泣いた。
涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃになったけど、構わずしばらくの間そのまま泣き続けた。

135 名前:ショコラ[sage]:2005/07/09(土) 22:18:50 ID:3M6I/GYE
以上でのだめ?編でした。ナンバリングが辛くなってきました。
でも皆様の方が、長い文章ゆえ、もっとしんどいのではないかと危惧しております。
いつも以上に、誤字・脱字、区切れ等のミスが多いかと思いますが、
大目に見ていただければ・・・と思ってます。ごめんなさい。

これからが一応スレの趣旨に合ったメイン(苦笑)ですが・・・。
続きはご、後日という事で・・・。申し訳ありません。
では、しばらく泥のように眠らせて頂きます・・・。おやすみなさい。

136 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/09(土) 22:22:26 ID:q3JzIJWq
ショコラさん、おかえりなさーい!
リアルで読めて感動しています。GJ!


137 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/09(土) 22:46:00 ID:WPT+cvhE
ふぉぉ〜。ショコラさんお待ちしておりました!
切なすぎ〜
GJデス!続きお待ちしております。

138 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/10(日) 00:28:21 ID:t43xWOWk
せ…切ない…GJです!
長くても構いませんよー。次回も楽しみにお待ちしております!

139 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/10(日) 00:41:34 ID:O9ektmrx
せ、切なすぎますっっ!!
次回も本当に楽しみにしてますよ〜!

140 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/10(日) 00:58:56 ID:HcpUYGJQ
チョト泣きました・・・(´Д⊂グスン

141 名前:名無しさん@ピンキー[]:2005/07/10(日) 01:01:24 ID:5kcZDsV1
おかえりなさーい!感動で、切なくて涙でそう…つづき待ってます!


142 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/10(日) 01:40:05 ID:yZZtBvcK
泣きましたぞ( ゚Д゚)ゴルァ!
この純愛路線からどうやってエロに転がるのか楽しみ

143 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/10(日) 01:43:59 ID:MgeOKBN7
す…すごいです!
今までロムってるだけだったけど言いたくなりました。
お疲れ様です。
ゆっくり休んでください!!

144 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/10(日) 06:43:08 ID:59ZIDwTK
な、泣いた……
真一くんのメール切なすぎだ

145 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/10(日) 12:40:44 ID:4+LDy4/y
私も泣きました〜(TT)
ショコラさん、お仕事お疲れさまでした。
ゆっくりお休み下さい・・・と書きつつ、
続きがとても気になります。。。(ゴメンナサイ!)
最終章の投下予定時期の見通しをお知らせ頂けると幸いです。

146 名前:ショコラ[sage]:2005/07/11(月) 00:29:42 ID:vxf+kLZi
おはようございます。・・・ってあれ、もう深夜でしたか。
皆様、沢山の身に余るお言葉、有難うございました。
私の方こそ嬉しくて泣きました。すごく光栄です・・・でも恥ずかしい・・・。
えー最終章というかエロ?編(笑)の投下予定の見通しという事ですが・・・。
少し疲労がピークにきてまして、余り作業できていないのが正直な所です。
ごめんなさい。本当に申し訳ありません・・・。
もしかしたら、投下予定の職人様にもご迷惑をおかけしているかと・・・。
なので、少しスパンを空けて今週末には皆様にお会いしたいと思っています。
これに懲りずに、またお付き合い頂ければ・・・と切に願っています。

147 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/11(月) 02:03:23 ID:qmRfVXj8
どこまでもついてきマスッ!いつまでも待ってマスよ〜!!

148 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/11(月) 18:15:07 ID:vNtU2RCb
ショコラさん最高です♪
気長に待ちますのでがんばりすぎないでくださいね(^^)

ところでここのスレにエロ絵の投下ってありですかねぇ?
オッケーなら描きたい。

149 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/11(月) 20:23:54 ID:H7Ro/LKm
ありだと思いますよ!

150 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/11(月) 22:34:33 ID:iIxRhN12
>>148
待ってます!

151 名前:匿名[]:2005/07/11(月) 23:43:23 ID:bvgMhFF0
ずっと読んでいたのですが2ちゃん初書き込みです。マジ感動してます。
小説家ですよ。楽しみにしていますね。よろしくお願いします!

152 名前:名無しさん@ピンキー[]:2005/07/12(火) 03:26:37 ID:C6gZwXW2
>>151
まずsageよう。話はそれからだ。(メール欄にsage打ち込むよろし)

153 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/12(火) 03:31:19 ID:C6gZwXW2
あはははは〜…ごめんなさいsageが消えてた〜〜〜〜


154 名前:乾燥[]:2005/07/12(火) 08:26:20 ID:l3wVH7NJ
喪失シリーズ・・・なんかNANAのハチみてぇなのだめだな・・・。
正直、好きじゃない。
漏れはエロ短編キボン。

155 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/12(火) 09:44:38 ID:8SSiHUJB
>>154
例え好みじゃなかったとしてもスルーしなさい。
自分好みのSSが投下されるまで待つがよろし。
それが大人の対応。
もしくはリクエストって形で職人さん光臨きぼんするとかね。

156 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/12(火) 16:09:14 ID:iDbxsudz
長いのを書かれる方は、自サイトをお持ちになればどうかと思う。
正直、自分に余裕があれば読みふけることも楽しめるが、
場合によっては、長すぎてなかなか入り込めないこともしばしば。
あ、喪失シリーズの続きは待ってます!なので批判ではないんですが。
過去ログ倉庫イッキ読みしましたが、前は軽いものや大爆笑もので盛り上がってたんですね。
それに、文字数制限でちょいちょい切られるより、読むならイッキのが見やすいと思いますし。
無料ブログとかどーでしょうか?以上一意見です。

157 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/12(火) 18:15:14 ID:KSpqMY+t
>>155
禿同。
でも確かにちょっと軽めが読みたかったりもする。エロのみとか。
職人様方よろしこ

158 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/12(火) 19:37:41 ID:hdNLCMiX
自分に余裕がないだけかもしれないけど・・・

スルーすれば、っていうけど限度というものが。

長い!長すぎる!初めのころはこんな続くとは思わなかったよ・・・
話に入り込めない私が憎い・・・


159 名前:名無しさん@ピンキー[]:2005/07/12(火) 19:46:14 ID:TEao45U4
漏れは感動したよ。

この作品はショコラさんの思うとおりに
完成させて欲しい!


160 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/12(火) 20:00:06 ID:OkGnKTB0
長いのも短いのも、いろんな人にいっぱい投稿して貰って、マターリ楽しめると嬉しス(´ー`)

161 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/12(火) 20:24:39 ID:9olH1H70
今更だけど…L28のラフマ連弾の後で、
千秋が寝てるのだめに自分のコート掛けて、
自分は寒がりながらのだめのマフラー巻いてるんだね。
今日気が付いた…

改めて、妄想を駆り立てる要素がちりばめられた話だと思った…

職人さんたちお疲れ様!いつも楽しみにしてます。

162 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/12(火) 22:23:31 ID:rAhStrRL
少し規定外?が出ると敏感に反応するのはどうかと。
ガイドラインみたいなのもできてたよね?前スレくらいで。
マターリいこうさ、マターリ。

>>161
その頃は変態色強くて妄想できなかったよママン…
今ならシチュ使えそう、職人さんオナガイシマス。

163 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/12(火) 22:46:51 ID:+28JWIJj
>>162
この中に現在投下中の職人さんを非難してる人はいない
この程度の意見を表明することをも厭うならば、金輪際2ちゃんになんぞ書き込むなと言いたい
自分のサイトで内輪で馴れ合いながらベタベタ楽しくやってりゃいいんでないのか?

正直、自分がエロ投下してるスレに比べりゃ何てマターリしてるんだろうと思うぜょ…

164 名前:drop ◆8d59i59Tbc [sage]:2005/07/12(火) 23:28:37 ID:kY6Z7M9k
みなさんこんぬつは。お久しぶりです。
初めましての方、初めまして。

一つ、投下をさせて頂きます。

軽い長さでエッチなモノ……ということで、お楽しみ頂ければいいのですが……。

ではどうぞ。

165 名前:○My lovely jimmy 1 /drop ◆8d59i59Tbc [sage]:2005/07/12(火) 23:29:16 ID:kY6Z7M9k
それは、ある夜のセックスの最中のことだった。

「せん、ぱい……あの……あっ」
「何……?」
「お願いが……のだめ、先輩の……あの……」
「なんだよ……」
「先輩の、いってるところ……見て、見たい…ん、です…あぅん……」
「……見てるだろ……?……いつも……」

オレはのだめがちゃんといったのを確認したいから、いくタイミングは少しのだめより遅い。
快感にぼんやりとしたのだめに見つめられながら……。
ということが多いから、その時の顔はもう何度も見られているはずで。

「そ、じゃ、なくてぇ」
「はあ……?」
「……るとこ、見たい……」
「え?……聞こえない」
「…るところ……先輩の、お……お……」
「……何?……はっきり……」
「せ、先輩の……お、おちんちんから、出るとこ、って……や、やあぁあん」
「……自分で言って照れるなよ……バカ……」
「やあん……ゴメンナサイ……」

のだめは顔を真っ赤にして、目をオレから逸らして顔を手で覆ってしまった。
こちらも少し驚いて、思わず腰の動きが止まった。

166 名前:○My lovely jimmy 2 /drop ◆8d59i59Tbc [sage]:2005/07/12(火) 23:30:01 ID:kY6Z7M9k
行為の一環として、口でオレを愛撫すること……フェラチオを覚えたのだめだけれど。
そのままのだめの口の中で果てるのも、また別の所、顔とか胸にかけるのもオレとしては少々抵抗があってしていない。
やっぱり、いく時はのだめの中が一番、いいし……。
だから、必ずゴムを付ける自分としては、いつものだめの中で絶頂を迎えている。
なるほど、確かにオレのそういう所をのだめは目にしたことがない。

オレはのだめの腰を掴み、勢いづけて抽送を繰り返した。
「や……! あっ、先輩、激し……っ」
「そーいう、いやらしいこと言うやつにはお仕置き……」
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ」
出し入れがされる度、可愛らしい唇から小刻みに嬌声が漏れる。
快楽に身悶えして彷徨った手がシーツをつかみあげ、よじった体のふくよかな乳房がふるふると大きく揺れる。

「やっ……!! っあ!! いっちゃう……!!」
「……いっちゃえよ……ここ、いいんだろ……? ほら……!!」
親指を伸ばして尖ったクリトリスを撫でると、のだめは体をびくりと跳ねさせた。
その行為にさらに感じたのか、愛液が溢れるように滴るのがわかる。
より大きくなっていく水音。ぐちゃぐちゃと、部屋に響き渡る。

「聞こえる? すげー音してる」
「いやっ、いやぁ……言わないで……」
「こんないっぱい、濡らして……いやらしいな、のだめ」

そのまま指の腹で押し込むように刺激すると、オレをくわえ込んだのだめのあそこは、絡みつくように絞り上げてくる。

「ほんとに……あ、ああ!!……いっちゃ──────────!!!!」

最奥に向けて強く強く打ち付けると、のだめは全身を痙攣させてのけぞり、高みへと登りつめた。
オレはいきそうになるのを我慢しながら、のだめの快感をより強くさせるため、膣壁を抉るように擦りあげた。


********************

167 名前:○My lovely jimmy 3 /drop ◆8d59i59Tbc [sage]:2005/07/12(火) 23:31:16 ID:kY6Z7M9k
「はあ……はぅん……はぁ…………」
絶頂の余韻に体をくねらせて、のだめは甘い吐息を吐き続けている。
荒い息に、ピンク色に染まった体が上下して、胸の谷間には玉のような汗が噴き出していた。

「のだめ……」
「……は……い…………?」
「見たい?」
「……え…………?」
「……オレがいくところ……見たい?」
「……はい。見たい、デス……」
「じゃ、見せてやる」

張りつめたままの自分自身を、未だ震えるのだめのそこから抜くと、ゴムを取り去った。
のだめは肘をついて体を起こし、天を仰いで臍に付きそうなまでのオレのペニスを注視している。

「あ、やん……」
のだめの秘部に触れ、溢れた雫を指先ですくい取ると、自分自身にそれを塗り込めた。
そして、そのぬるみを利用して自分で擦りあげていく。

「……のだめも、触っていいですか?」
「ん……触って……」
のだめは遠慮がちに、括れや先の方に指先を這わせてきた。
「ぴくぴく……してます……」
「うん……腹の上に出すけど、いい?」
「……はい。……いっぱい、出して……」
「あ、いきそ……」

オレは亀頭に這わされていたのだめの指先をつかむと、自分の指に添えて幹を擦りたてさせた。
既にのだめの中で十分に高まっていたオレは、もう我慢も限界で…………。



168 名前:○My lovely jimmy 4 /drop ◆8d59i59Tbc [sage]:2005/07/12(火) 23:32:56 ID:kY6Z7M9k
「のだめに、いっぱい……かけてください……」

そんなことを囁かれて、オレは─────

「うっ、あ!! ……っっあ!!」
こんな、すぐに、欲望をいっぱいに爆発させた。

「わ!! ……ふわぉ……」
勢い良く吹き出した精液はのだめの白い腹に飛び散り、その末端はのだめの乳房にまでかかった。
「……っ、……っ、……はああぁ……っ」
「しゅごい……わぁ……また、出た」
二度、三度と吹き出したオレの恥ずかしい滴りは、のだめの臍に小さな泉を作って。
こんなに……全く、恥ずかしい……。

「……ふー…………」
「いっぱいです……真一くんのエッチな液……たくさん……」
「……恥ずかしいこと言うな」
「こんなに飛ぶんですね、びっくりデス……」
乳房にかかったそれを拭おうとするのだめを制止して、オレはサイドテーブルからティッシュを取った。

「ごめん、汚して」
そう言うと、のだめは首を横に振った。
「おもしろかったデス」

おもしろかったって……。
オレはのだめの体にかかった自分の精液を拭い去り、その後で新しいティッシュでのだめのそこを拭いてやった。
その間も、のだめの視線はオレのあそこに集中している。
「あんま、見んな……」
「あ、待って。……のだめが拭き拭きします」
自分自身の後始末をしようとティッシュで隠したオレに、のだめは嬉々として手を伸ばした。
「やめろって……」
「いいんデス。見せてくれた、お返しデス」

169 名前:○My lovely jimmy 5 /drop ◆8d59i59Tbc [sage]:2005/07/12(火) 23:35:25 ID:kY6Z7M9k
のだめは楽しそうにオレのペニスに手を添えて、ティッシュを動かしていく。
「おもしろいですね、男の人って……あんなに大きかったのに、もうこんな小さく縮んでるし……」
「……おまえって、よく、そーいう恥ずかしいこと臆面もなく言えるよな」
「えー? だって、なんか……おっきくなったり、小さくなったり、ぴくぴくしたり、どくどくしたり……」
「…………」
「可愛いですネ、おちんちんって♪」
「はあ……可愛い……」

可愛い……のか、オレの、これ……。
その響き、ちょっと複雑だぞ…………。

「はい、俄然興味が沸いてきました!! ……むきゃっ♪」

やっぱり、見せなきゃよかった……オレは激しく後悔した。


─────その後、散々いじくられて、恥ずかしくも反応して、2回目に突入した。

********************

また見たい、とのだめは言ったけど、もう絶対見せないことにした。
けちけち、とうるさいから、どーしても見たかったらフェラチオだけでオレをいかせてみろ、と言うと……。
イヤな方向に火を付けてしまったらしく、翌日からネットに張り付いてなにやら学んでいる様子。

─────こんないやらしい変態女。
あきれると同時に、ちょっと楽しみだったりして……オレもオレだ、と苦笑するほかにない。

まあ、今のところは、オレはまだのだめに負けていない。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ End

170 名前:drop ◆8d59i59Tbc [sage]:2005/07/12(火) 23:38:06 ID:kY6Z7M9k
以上です。

『 jimmy』=スラングで『ペニス』の意味だそうです。
私のかわいいおちんちん〜というところですかね。

というわけで。
長編も短編も、スレの活性化に繋がっていけば宜しいのでは、と思います。

それでは名無しに戻ります。

171 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/12(火) 23:38:48 ID:ASD3Dzda
GJですた(´Å`)
リアルタイム初で感動。

172 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/12(火) 23:41:37 ID:pokFkYdI
dropさん、お帰りなさい!
GJでした!
久々のリアルタイムで感激です!
エッチな2人がとてもいいですねー。
またの降臨をぜひぜひお待ちしています!


173 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/13(水) 00:24:24 ID:72iahr48
わーい、GJ!
とってもエッチ、かつほのぼの笑えて楽しかったです。
イヤな方向に火のついたのだめの今後に期待w


174 名前:ショコラ[sage]:2005/07/13(水) 07:07:05 ID:6FcE+5uK
おはようございます。皆様、色々とご迷惑おかけして申し訳ありません。

こちらに投下させて頂いた以上、
厳しくて率直な意見こそ、私にとって、とても有難い事と考えております。
必ず自分にフィードバックさせて頂きます。本当に有難うございます。

ご意見にもあった、ブログ等を私は持っていないので、
もし許されるなら、皆様のご好意に甘えて、このお話はこちらで引き続きお世話になりたく思いますが、
長過ぎてスルーし辛い・・・という事は、当初から本当に申し訳なく心苦しく感じていた事なので、
状況判断を誤りたくない・・・というのが本音です。
このスレが好きなので、自分がスレの雰囲気を乱すような事は、出来るだけ避けたいと思っております。

>dropさま

久しぶりにこちらでdrop様に邂逅致しまして、私も感激です。


175 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/13(水) 10:27:35 ID:prjAviPa
>ショコラさま

ここは読み手、書き手の相互関係あってこそのスレだと思ってます。
無論ですが。私はショコラさんの作品楽しみに待っています。
忙しい中時間を割いて書き上げた作品、読み手があってこそです…

なんだか偉そうになってしまいましたが、私は楽しみにしながら覗いてます。

176 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/13(水) 11:33:59 ID:9f9kPKsR
最近、萎えるレスが多くて正直ウンザリしてます。
作家さんたちが作品を提供し、読み手さんたちがその中から自分好みの
SSを見つけ、気に入ればGJレスをつける。
これが満たされてこそのスレでしょうに。

作家さんたちを去らせてどーすんの?(すでに一人追い出してるんだし)
気に入らなきゃスルーってのも暗黙の了解じゃなかったのでしょうか?
スルーするにも長すぎるって、ただスクロールするだけの作業が
そんなにも苦痛ですかね。

「馴れ合い」とか言われてた頃のほうがずっとマターリしてたよ。

177 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/13(水) 13:20:36 ID:IEMm1QH2
>>176
あの程度の意見もスクロールしてスルー出来ないの?プ

178 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/13(水) 15:22:56 ID:L+WFkAqx
>>170
dropさんGJでした!
好奇心旺盛なのだめがカワイイです。

色々意見もありますが、私は色んな職人さんのSSが楽しみで通ってます。
良い意見ばかりじゃないかもしれないけど、期待してる感想も多いのですから
ぜひ頑張って続けて欲しいと思います。

179 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/13(水) 15:38:33 ID:6cXQBOzt
>>176 の方が萎えるよ…

私も他所で書いたりするけど、ただGJと言われるだけより
いろいろな意見を言ってもらったほうが嬉しいし、今後の役にも立ちます。

180 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/13(水) 15:47:21 ID:SpDYwrsQ
このスレのいいところって、違う職人さんのSSが楽しめるところだと思う。
嫌ならスルーすればいいとまでは言わないけど、
マッタリ職人さんの君臨を待ちながら楽しみたいと思った。

181 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/13(水) 16:41:38 ID:K1IioWcl
役に立つ意見ならね……。

マンセーしてりゃいい、と言っているわけではないのだが、
そう取れる書きかたをしてしまっていたようだ。スマンかった。
しかしなー。
「ツマンネ」や「長すぎ」は、意見なのか?
そこに道理がなきゃただの我侭になりはしないのかな?

職人さんが投下したいと思えるスレであってほしい。

182 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/13(水) 18:06:28 ID:IEMm1QH2
長すぎっつーのは我侭でも何でもなく、一つの意見でしょうね
他のスレなら「私物化uzeeeeeeeeeeeeeeeeeeee」でとっくに追い出されてるよ
それが無いだけマシっつーか、寛容だよこのスレ
つまらんかどうかは主観だけど、その人の率直な感想でしょう?
ツマンネものを馴れ合いで「面白い」と言われるより自分は余程嬉しいね
でなきゃわざわざ2ちゃんに落とす意味無いし、
少しでも否定的な意見を目にしたくないなら場違い

そもそも「役に立つ意見」ってナニ?
「ここの表現は、文法として間違ってるよ」とかそういうの?

183 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/13(水) 18:47:45 ID:MZ4XyrRL
あのね、すこし落ち着いて読んでみてね?
「そこに道理がなきゃ我侭になる」と言っているのだけど。
否定的な意見を目にしたくないなんて言ってないんだけどな。

「意見」とか「率直な感想」とか言うけれど、
読んでて「ふーん」と納得できる書きかたしてるレスならわかるんだよ。
「ツマンネ」としか書かれてないレス見て嬉しいとか思わんだろ、普通。
「長すぎ」と書かれるよりも
まだ「長い。私物化だろコレ」と書かれてたほうが、そっかと思うのだが。
他と比べてマシっていうのは関係ないな。
ここのスレが好きで来てるんだしね。

ここは文学サロンではないので、「文法として間違ってるよ」という意見は
どうなんだろうw まーこんなのはどっちでも。

なんか荒らしてる気分になってきたので、もうやめときます。
職人さんがんばってください。


184 名前:乾燥罪[]:2005/07/13(水) 19:16:36 ID:r/yJW4ZH
どっちにせよ、長編モノは単独で独立させたほうがいいのでは
ないでしょうかねぇ?

しかもここはエロスレのハズ・・・・





185 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/13(水) 19:28:22 ID:IEMm1QH2
>>183
私もこれで最後にするけど、あなたが「ツマンネ」という感想を例に出してただけで、誰もつまらんとは書いてないのよねぇ…
ツマンネって書かれるだけマシだと思うけどね、読まれずスルーされるよりはな
そして、あんたは実の無い意見だと言ってるけど、それぞれ理由付きで意見してますよぉ…
他のスレよりマシってのは大いに関係ありますよ、自分に都合のいい環境が欲しいなら御自分で勝手にブログなりサイトなりやればいいんだからね

186 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/13(水) 19:59:11 ID:6wvVM+ij
ここをきっかけとしてサイトをもたれた作家さんもいるでしょうし、
私もその一人ではあります。
ここに投下する物とそうでない物との分け方は、
単純に「長さ」を基準としてます。私としては。
それとやはり、「エロ」要素があるか否か、ですね。
「エロパロ板」に立っているのですから、それを求めてこられる方が多いと思いますので。

作品がすべて万人に受け入れられる物ではないので、GJと思う方も、
ツマンネ、と思う方も、双方がいて当然です。
ただ、相手をむやみに攻撃するようなレスはどうかな、と思いますよ。
ツマンネ、だけだと書き手も直しようがないですから。

ここは21歳以上の大人の板ですからね。
あんまり子供っぽいことばかり論議されていると……投下もしにくいです。
だから、去っていった作家さん多いのでは?

187 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/13(水) 20:30:31 ID:OOzBMMwM
SSより議論で埋められる方がどのどのSSも楽しみなROMとしては困る。
長文議論するならまだ容量の余ってる前スレを使ってはどうでしょうか。

188 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/13(水) 21:12:49 ID:woSNUU5r
何はともあれ・・・
職人さん方、投下楽しみにしています(゚∀゚)
ちなみに私は長編も短編もエロもギャグも切ないもウェルカム雑食ですw

189 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/13(水) 22:44:22 ID:wWAQ2juN
drop様乙です!
エロ度が高くてドキドキでした。


190 名前:名無しさん@ピンキー[]:2005/07/13(水) 23:46:03 ID:dNU6XIfr
続きが読みたくて毎日毎日チェックしてるものです。
気長にまってるのでがんばってください。

191 名前:drop ◆8d59i59Tbc [sage]:2005/07/14(木) 00:10:35 ID:Ju6jzdv5
こんばんわ。
ご感想有難う御座いました。

まあ月並みですけど、マターリいきましょう。

192 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/14(木) 22:39:51 ID:sQ4Gsach
一気に読みました。

千秋先輩のメール、切なすぎデスよ〜涙

泣いてしまいまシタ…

続きの投下をまってます!!
気長に楽しみにしてます〜。今まではキスでしか読んでなかったけど、単行本も買おっと♪♪


193 名前:ノヴェレッテ 1[sage]:2005/07/15(金) 18:43:20 ID:qMaSnKBV
『ノヴェレッテ』

「おどけた話、エグモント風の物語、父親たちの出る家庭的な場面、結婚式、
 これらを集めてノヴェレッテ(短編小説)と名付けました」 byロベルト・シューマン(1838)

力強く 楽しげに奏でられる 和音
そうかと思えば 切なげに流れる指先からの 旋律
掻き立てられた情熱と その中に ふと 生まれる 不安という名の 炎
その火は やがて わが身を焦がし 狂気へと追い詰める
愛するクララとの 幸福な日常を 夢見て
しかし 焦燥と微かな絶望の予感は 確かにこの胸にある

アパルトマンの中庭から、真一はあるひとつの窓を見上げた。
橙色の暖かな明かりが洩れて、その部屋にいる人物が未だベッドで休むことなく
起きているのだということが窺える。
腕時計はもうすぐ日付が変わってしまうことを持ち主に告げていた。
「……こんな遅くまで」
明日も学校があるだろうにと眉を顰めて、しかし自分の帰りを待っていてくれたのかと
思うと彼は唇の端を緩ませた。


194 名前:ノヴェレッテ 2[sage]:2005/07/15(金) 18:44:15 ID:qMaSnKBV

ドアを開けた彼を待っていたのは、愛しいひとではなく。
襲い掛かるような、音。
畏怖さえ感じさせるそれは、真一が入ってくることを拒み、慄かせ。
しかし激しい愛を歌い、早く求め合いたいと誘う。
そのどちらにも縛られて、彼は暫く身動きが取れずに。
心に渦巻く不可解な欲望をただ、感じていた。

恵はシューマンの小さな狂気に飲み込まれていく自分を、どこか冷静な気持ちで
眺めていた。
ヴィークに反対され続けた二人の結婚。
その中で幾度も交わされた、愛に溢れた手紙。
シューマンの生涯で、確かに幸せだった頃の、記憶。
そこに産声を上げる小さな炎。
共に焼かれてしまうのも悪くないかもしれない。

それでも。
ピアニッシモで囁くピアノは、奥から湧き上がる不可思議な欲望を
彼女の前に曝け出す。
彼に、追い付きたい?
自分のピアノを認めてもらいたい?
そうだけど、そうじゃない。

ただ、欲しい。



195 名前:ノヴェレッテ 3[sage]:2005/07/15(金) 18:44:59 ID:qMaSnKBV

フォルティッシモは情熱と共に。
弾け飛ぶ汗、響き渡る和音。
説明のつかない、けれどもシンプルな感情は、心臓を締め上げ息を乱れさせる。
最後の音が空気に紛れても、鼓動が静まることはなく。
もう休もうと疲れきった身体をどうにか立たせるとそこには。
求めていたひと。
恵はそっと腕を伸ばし、無言のまま真一の首に縋りついた。

そのまま二人は恋の狂気に身を躍らせ。
一刻も早く抱き合いたいのだと衣服を脱ぐのももどかしく。
彼の手によって弾け飛んだボタンは軽快に跳ねたあと床に寂しく転がり。
消し忘れたライトにより露になった肌はいつもよりその存在を主張した。
が、すぐに彼の身体によって覆いつくされてしまう。

深く重ねた唇が離れると。
目の前には、獣の顔をした男。
目の前には、濡れた瞳と頬を上気させた女。
柔らかなふくらみに舌を這わせ、指で淫猥な水音を立てる男と。
叫び声を上げ、腿を震わせ、背中に爪を立てる女。
やがて肉体がぶつかる音と、間隔が短くなってく吐息。

弾け飛ぶ汗、囁かれる愛の言葉。

未来に思い描く 確かに幸福な 日々
それでも消えることのなかった 狂気の炎は いつかこの身を焼き尽くす
けれど 彼女を 彼を 求める心は 止まることなく


end


196 名前:びーどろ@ワルツ[sage]:2005/07/15(金) 18:48:17 ID:qMaSnKBV
短いの1つ、投下してみました。
曲の解釈は、個人的なものなので、イメージと違っていたらごめんなさい。
あんまりエロくないかもしれませんね。

いつもいつもすばらしいSSを書いてくださる職人さんたちに捧げます。

197 名前:名無しさん@ピンキー[]:2005/07/15(金) 19:26:54 ID:VkTTpguN
びーどろさん、GJです。
なんだか通り雨のような、
夕立ちが起こって一瞬に過ぎ去っていったかのような
スピード感があるお話でした。

私は好きです!

ありがとうございました。
また投下待ってます〜






198 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/15(金) 22:43:49 ID:soAZVQMt
びーどろさん、GJ!
素敵です♪

199 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/16(土) 00:04:30 ID:t18WNx0T
GJです!
曲とお話がうまくかみ合っててよかったです。
こういう短編ものだめならではでいいですね。

200 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:2005/07/16(土) 00:48:25 ID:z7MITKXk
週末です。ショコラさんお待ちしております


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