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のだめカンタービレ2

101 名前:Christmas Memory 〜ふたつの願い〜/ヴァイオリン[sage]:05/02/13 11:04:38 ID:Ilf6NeFX

●18
ゆっくりと、舌を音を立てて絡ませ、吸い上げ、口内の内側を舌で強くねぶる。
今度は左手で左胸を揉み上げながらブラを上に押し上げ、こぼれ落ちてきたそのまろみを直に撫で上げて味わう。
白く柔らかい胸の中心にある、赤い頂はすでに快感を主張するように硬く張り詰めていた。
指先軽く弾くと、途端のだめの身体がビクリと跳ね上がる。
人差し指と中指で軽く挟んでコリコリと動かしてやる。
さらに強い衝撃に突き動かされるようにのだめの身体が跳ね上がり、
合わさった口内からくぐもった声が舌を伝わってダイレクトに頭に響いた。
再び、胸を円を描くように、時に優しく掴みながら揉み上げる。
右手は既に太ももから足の付け根へと移動し、そっとその中心を指先で撫で上げる。
ブラジャーとお揃いのショーツは、予想通りにぐっしょりと濡れそぼっており、蜜で溢れ返っていた。

軽く触れるだけで、腕の中ののだめの身体が、まるで陸に上げられた魚のように跳ね返る。
そのままゆっくりと人指し指と中指を揃えて前後に動かし、時々グリグリと強く押し付けながら撫で上げる。
「……はあぁっ…あんっ…セ…ンパイ…お…ねが…い…まっ…て…」
ようやく唇を開放してやると、のだめはまだ何か言いたげなようだったが無視する。
プレゼントの包みを開けるようにショーツのリボンを指先で引っ張ってほどいた。
ぐっしょり濡れたそれをベッド下に落とす。
軽く触れるだけでぴちゃぴちゃと音が静かな室内に響き、指先に溢れんばかりの愛液が絡みついた。
ゆっくりと右手の人差し指を中に溢れる泉に沈めるとなんの抵抗もなく、飲み込んでいった。
……熱い……。
相変わらず熱くて狭いそこは、待ち構えていたかのように千秋の長く美しい指を銜え込んで、きゅうきゅうと締め上げる。
たまらず中指も突き入て、激しく出し入れしてやると、じゅぶじゅぶと音を立てながら飛沫をあげ、
千秋の手首までびしょ濡れにし、流れ落ちた愛液はネグリジェにしみを作った。

102 名前:Christmas Memory 〜ふたつの願い〜/ヴァイオリン[sage]:05/02/13 11:05:33 ID:Ilf6NeFX
●19
「……やあぁっ!……セン……パイッ……ああぁっ……!」
のだめは悲鳴のような声をあげて、全身を震わせながら両手でシーツをぎゅっと掴みながら登りつめた。
はぁはぁと荒い息を繰り返すのだめの目の前で、のだめの蜜で濡れた手をわざと見せ付けるように、
ゆっくりと口に入れて蜜を舐め取っていった。
そんな千秋の姿にのだめはますます頬を染め上げた。

「……久しぶりに、おまえの身体が見たい……」
耳元で甘く囁くと、のだめはしびれたように動かなくなった。
そのままのだめを優しく抱き起こすと、のだめに両手を挙げさせ、ネグリジェを頭からゆっくりと脱がせた。
一緒に胸の上に押し上げられていたブラジャーのホックを片手で器用にはずす。
千秋もパジャマを脱いでボクサーパンツ一枚になり、のだめの衣類と一緒に椅子に放り投げた。
そのまま胸を隠そうとするのだめの両手をつかんで組み伏せ、ベッドサイドの淡い光の中で、
3週間ぶりに見るのだめの生まれたままの姿をじっくりと眺める。
サラサラの栗色の髪も、同じ色の大きな瞳も、時々ひょっとこ口になるふっくらとした紅い唇も、華奢だが柔らかな身体も、
それに似つくかわしくないほど存在を主張している豊かな胸も、透き通るよう白いすべらかな肌も……すべてが愛おしかった。

こいつはこんなに綺麗だったか?
こんなにも愛らしかったのか?
出会った頃はゴミ溜めに住む、ただピアノが凄くうまいだけの変人としか思えなかったのに……。
今ではこの腕の中の存在が何よりも愛おしい。

「……好きだよ…のだめ……」
愛しげに囁きながら、優しく口付け舌を絡ませた。
くちゅりと音を立てながら唇を離すと、そのまま頬…鼻…耳朶…うなじ…顎…鎖骨…と、やさしく唇でなぞり、
舌で舐め上げ、時には強く吸い上げて所有の証を刻む。

103 名前:Christmas Memory 〜ふたつの願い〜/ヴァイオリン[sage]:05/02/13 11:06:32 ID:Ilf6NeFX

●20
「……はぁ……あんっ……あぁっ……!」
のだめはもう抵抗する気力もないのか、ぐったりとしながらひたすら千秋の愛撫に喘いでいた。
白いまろみまでたどり着くと、両手で優しく揉みながらその紅い小さな果実を口に含み、舌先でちろちろと転がした。
そして大きく口を開けてむしゃぶりつきながら、舌で唇で丹念に舐め上げる。
「やあぁあっ……!センパイッ……!」
悲鳴のような声をあげてのだめが千秋の頭にしがみつきながらおとがいをそらした。
ハァハァと荒い息を漏らしながら、千秋の髪をくしゃくしゃにかき回す。
お互い視線が合って、どちらともなく唇を合わせた。
唾液ごと舌を絡ませ、強く吸い上げる。
何度のだめの唾液を飲み干してもまだ足りないと感じてしまう。
まるで海水を飲んだかのように……熱病に罹ったかのように、喉が乾いて乾いてたまらない。
「……おまえが、好きだ…おまえは……?」
睫が重なるほど間近で、のだめの瞳を覗き込みながら尋ねる。
「……好きに決まってるじゃないデスか…のだめが世界中でただ1人好きなのは…愛してるのは先輩だけなんデスよ……?」
愛するものに愛される―――そんな至高の喜びに満ちたりた笑顔でそう言うと、のだめはそっと瞳を閉じて、
千秋の唇に自らのそれを寄せ口付けた。
何度も何度も情熱的に、激しく舌を絡ませる。
「……ん……ふぅ……」
くぐもった声が漏れ、唾液が零れるのも構わないほど熱く激しい情熱的なのだめのキス―――
そんなキスをあえて受身になって楽しんでいた千秋だったが、抱き締められてひっくり返され……気がつくと仰向けにされていた。

104 名前:Christmas Memory 〜ふたつの願い〜/ヴァイオリン[sage]:05/02/13 11:07:26 ID:Ilf6NeFX

●21
「……えっ……?」
のだめが腹筋の上に馬乗りになり、恥ずかしそうに笑いながら千秋を見下ろしているという事実に、しばし呆然とする。
「……今度はのだめにさせて下サイ……」
「…えっ?…おい…ちょっと…!」
慌てて起き上がろうとする千秋を押さえつけながら、のだめは素早く千秋の左の耳朶を小さな紅い舌でぺろんと舐めて、
ふっと熱い息を吹きかける。
「…う…あぁっ…!」
身体中にぞくりとするような快感が走り、思わず悲鳴のような声が漏れてしまった。
…力が…抜ける……。
千秋の性感帯を攻めたのだめは、してやったりという感じで笑いながら、そのまま千秋の端正な頬やうなじを唇でなぞり、
時折舌でちろちろと舐める。
細くて白い柔らかな指で、千秋の細身だが均整の取れた逞しい身体を、さわさわとまるで鍵盤を弾くように触れていく。
強弱をつけ、優しく……時に強く撫で、それに連動するかのように柔らかな唇が千秋の鎖骨に触れ強く吸い上げた。
「…うきゅ…キスマーク、付けちゃいました…」
千秋の白い磁器のような滑らかな肌に浮かび上がった紅い華を見ながら、のだめは嬉しそうに千秋を見下ろす。
そんなのだめの身体にも、先ほど千秋がつけた紅い華が無数に散りばめられている。
そんな淫靡な光景を目の前にしながらも、千秋はまるで痺れたように身体を動かせなかった。
……なんなんだ?今のテクニックは……あんなのオレは教えた覚えはないぞ……?
のだめの与える愛撫のあまりの凄さに、千秋は身体が奥深くからなにか溶け出すような、そんな感覚に囚われていた。
確かにのだめは初めての頃とは比べものにならないほどセックスが上達している。
間が空いたとはいえ、2ヶ月かけてみっちり教えたかいあって、身体を重ねるごとにどんどん凄くなっていくのを、
毎回実感している。
しかし―――いつのまにあんな凄いテクニックを覚えたんだ……?
そんな千秋の戸惑いをよそに、のだめは再び愛撫を再開した。
ゆっくりと逞しい胸にさわさわと指を這わせ、左手の指で左の乳首を優しく撫で、
右の乳首は紅い舌先でちろちろ舐めながら口に含んで湿った音を立てて舐めあげた。
淡い光の中で快感を主張するかのようにすっかり尖った乳首は、唾液でぬらりと光っていた。

105 名前:Christmas Memory 〜ふたつの願い〜/ヴァイオリン[sage]:05/02/13 11:08:55 ID:Ilf6NeFX

●22
……すごい……。
「……はぁ……あぁっ……!」
千秋はその端正な唇から、甘い吐息を零れるのをもう止めることができなかった。
のだめの指が、唇が、舌が触れるたびに、その部分がまるで熱をもって溶け出していくようなそんな感覚に襲われる。
……身体が、熱い…まるで燃え上がるようだ……。
オレ、本当にどうしたんだ……?
いや、それよりのだめだ…いったい何が、どうなってんだ……?
「……真一くん…気持ちいいデスか……?」
引き締まったわき腹を撫で、臍を赤い舌を伸ばしてちろちろと舐めながら、のだめは尋ねる。
“真一くん”と聞いたとたんに、ドキッとときめく。
普段は“千秋先輩”とか呼んでるのに、甘えたい時、寂しい時に無意識なのか呼ぶ時がある。
そう呼ばれると……正直なところ、ツボを押されるというか、可愛くて可愛くてたまらなくなる。
しかし、今まではセックスの最中には、呼んだことはなかったのに……。
そんな疑問も、今度は引き締まった腹筋をぺろぺろと舐められ、湧き上がる快感の凄さに、もはや思考がついていかない。
「……あぁ…すごい…最高だ…のだめ……」
身体を震わせ、のだめの頭を両手で掴む。
のだめは、ふいにその右手を掴んでぺろりと舐める。
「…………!!」
のだめのざらざらした柔らかい舌がちろちろと千秋の大きくて無骨な、でも滑らかな白い手を唇でキスししながら舐めていく。
指を一本づつ口内に入れ、丁寧に舐めあげていく。
ピアニストでもある敏感な千秋の指が、暖かなのだめの口内にどこまでも吸い込まれ舌が絡みつくその感覚は―――
まるでのだめの中を連想させた。
のだめは今度は左手の愛撫を始めていた。
今や千秋の神経はするどく研ぎ澄まされ、のだめから与えられる感覚すべてに占領されていた。
まるで指揮台に立ってオーケストラを演奏する時のように―――
「……あぁ…のだめ……いいっ……!!」
のだめから与えられる愛撫に、千秋はあられのない声で喘いだ。
普段の俺様からは想像もつかない姿……こんな姿今まで誰にも見せたことはなかった。

106 名前:Christmas Memory 〜ふたつの願い〜/ヴァイオリン[sage]:05/02/13 11:10:36 ID:Ilf6NeFX

●23
あの気位の高い彩子にだって……誰にも……。
それが、あののだめ相手だぞ……?
いったいどうなってるんだ……?

そんなことを考えているうちに、のだめが千秋のボクサーパンツに手を掛けていることに気がついた。
「お、おいっ!!」
さすがに慌てる。
「それはまだ教えてないだろ?別に無理しなくてもいいから……」
「……のだめ、無理なんかしてまセンよ……?」
そう言いながら、布越しに硬く盛り上がっている千秋自身にそっと触れる。
「〜〜〜!!」
鋭い射精感が走りぬけ、危うく先走りするところだった。
のだめは、盛り上がっている部分に気をつけながらボクサーパンツを下ろして、椅子に放り投げる。
千秋自身はすでに天に向かって硬く立ち上がっており、鈴口からすでに溢れんばかりの先走り液が滴っていた。
のだめはしばらく黙ってそれを眺めていたが、手を伸ばし右手で軽く握りながら、亀頭にそっと唇を寄せた。
のだめのふっくらした柔らかな唇が自身を飲み込んでいく様子を、千秋は夢の中の出来事のようにぼんやりと眺めていた―――
「――――!!!」
が、すぐに柔らかく暖かいものに覆われた感触に全身をつらくような快感に支配される。
「……はぁ……あぁっ……!!」
思わず、女みたいな喘ぎ声が漏れ出てしまった。
のだめの柔らかい唇が亀頭を銜え込み、じんわり溢れ出る先走り液を舌でちろちろと舐めながら唾液と一緒に飲み込む。
くびれの部分を舌先で重点的につつきながらくるりと円を描くように舐めまわす。
右手で竿をしごくように上下させ、左手で袋の部分をやわやわと優しく揉みあげる。
喉奥まで飲み込んで、口内全体で絞りあげ何処までも吸引する。
そうかと思うとざらざらした暖かな舌で、根元から先端までわざとらしいほどゆっくり舐めあげた。
まるでアイスキャンディーを舐めるかのように―――
のだめが与える愛撫は、恐ろしいまでに執拗だった。

107 名前:Christmas Memory 〜ふたつの願い〜/ヴァイオリン[sage]:05/02/13 11:12:16 ID:Ilf6NeFX

●24
「……の…だめ……ああぁっ……いいっ……!!」
千秋はのだめの髪を両手で梳きつつ、荒い息継ぎをしながら悲鳴のような声をあげた。
あまりの快感の凄さに、もう何も考えられない。
千秋は今まで、セックスだけではなくすべてにおいても自分を失うということはなかった。
どんな状況においても、冷静であり理知的に行動する。
たとえ家族であっても、弱味を曝け出すようなことは決してなかった。
それがどうだ―――のだめと出会ってから調子が狂いっぱなしだ。
好きだと追っかけてくるくせに、捕まえようとするとすぐ逃げる。
この俺様をこんなにも翻弄するのは、感情的にさせるのは―――
こんなに理性をなくしたみっともない姿を曝け出せるのは、のだめ……おまえだけだ……!!!
「……真一くん……どうして欲しいデスか……?」
ぺろぺろと鈴口を舐め、竿をしごきながら、くぐもった声でのだめが聞く。
その声は恐ろしいほど甘美で……千秋はその魔力に捕りつかれていく。
……どうして欲しいかって…?決まってるじゃないか…!バカのだめの奴……。
そう怒りを覚えつつも、身体がいうことをきかない。
のだめの中に入りたい……早く…早く…のだめが欲しくて欲しくてたまらない…!!
「……ちゃんと言ってくれないと…このままやめマスよ……?」
それが真っ赤な嘘だとわかっていても…千秋にはもうどうすることできなかった。
理性が音を立てて崩れる音が聞こえた。
「……入…れて…くれ……頼む…から……」
息絶え絶えに、千秋が懇願する。
もう俺様千秋はどこにもなかった。
「……おまえが…欲しいんだ…のだめの中に…入り…たい…」
熱に浮かされたように、のだめの瞳をみつめる。
「……いやデス…」
信じられないのだめの拒絶に、千秋は一瞬全身が凍りついた。
「……ちゃんと、名前で呼んで下さい…恵って…じゃないと、もうやめマスよ……?」
悪戯っぽく笑いながら、千秋の顔を覗き込む。

108 名前:Christmas Memory 〜ふたつの願い〜/ヴァイオリン[sage]:05/02/13 11:13:20 ID:Ilf6NeFX

●25
くっ…!この小悪魔…!!
普段自分がのだめにやっていることを綺麗さっぱり棚の上に放り投げて、千秋は歯軋りする。
……だが…もう耐えられそうにない。
身体の中心に血液も神経も集まっているかのように、身体が熱く疼いてしかたない。
「…恵…頼…むから…入れて…くれ…!!」
千秋はアルプスより高いプライドを投げ捨てて、叫ぶように懇願した。
それを聞いて、のだめは嬉しそうな笑顔で千秋自身を唇から開放し、ぺろんと唇を舐めながらむっくり身体を起こした。

のだめの秘部は千秋の腹筋にぴったりとつけられ、溢れ出た愛液が流れ落ちて千秋のわき腹に溜まり、
そこからシーツへと流れ落ちていった。
それから前屈みになって千秋の唇にそっと口付けた。
「……ゴム、いつものとこに入ってるから……」
千秋は、ベッドサイドの小さな引き出しを視線で指し示す。
だが、のだめはそんな千秋を無視して、腰を浮かせその赤く充血しきった濡れそぼる秘裂を、
そのまま千秋自身にあてがった。
「おいっ!おまえ何やってんだ……!?」
さすがの千秋も激しく動揺する。
くちゅりと音を立てながら互いの秘部が触れ合い、その熱さに一瞬理性が飛びそうになりながらも、
必死でのだめを止めようとする。
しかし、のだめは構わず千秋の亀頭をくちゅりと蜜で濡らしながら、膣内の中に少しづつ銜え込み、
ゆっくりと腰を下ろしていった。
「……だい…じょ…うぶデス…のだめ…ピル…飲んでます…から……」
息絶え絶えに言いながら、のだめはゆっくりと千秋自身を体内に飲み込んでいく。
「……ピルって、おまえが……?」
あまりの快感の凄さに理性を吹き飛ばしそうになりながらも、
それ以上自身が入らないようにのだめの腰を抑えつけながら千秋が尋ねる。

109 名前:Christmas Memory 〜ふたつの願い〜/ヴァイオリン[sage]:05/02/13 11:14:35 ID:Ilf6NeFX

●26
「……ターニャに…病院を…紹介してもらったんデス。ちゃんと…毎日決められた時間に…飲んでますから…
 大丈夫です……」
「大丈夫って…なんで、いきなりそんな……」
「……真一くんが…好きだからですよ…真一くんと、本当にひとつになりたかったんデス…
 だから、お願いしマス。このまま生でさせて下さい!」
そう叫ぶように言いながら、千秋の唇に口付ける。
舌を絡ませながら、何度も角度を変えて唾液を混ぜあわす。
くちゅりと音を立ててながら唇を離して、みつめあった。
「……本当に、いいんだな……?」
「はい。お願いしマス…」
その顔はあまりに真剣で……千秋は降参するしかなかった。
「……わかったよ。でもな、の…いや恵。あまり無理するな。オレはおまえに負担はかけたくないんだ…。
 でも…気持ちは嬉しかったよ。ありがとな……」
千秋はそっとのだめの頬を撫でた。
「のだめ、負担なんかじゃありませんよ…?真一くんと本当にひとつになれるためだったら、
 毎日ちゃんとお薬飲むのだって平気ですから」
のだめはにっこりと笑う。
まったく、ズボラなくせに何言ってんだか…と思いつつ、千秋は胸が熱くなるのを感じた。
本当に、なんて愛おしいのだろう。
こいつをずっとこの腕の中で守っていけたらと強く願う。
この瞬間が永遠ではないとわかっていても―――

「……真一くん…いい、ですか……?」
そう言いながら、のだめは再びゆっくりと腰を下ろしていった。
「……ああぁっ……!!」
同時に、互いの唇から艶やかな吐息が零れる。
……なんて…すごい……。
全身から汗が吹きだし、じっとりと身体を濡らした。

110 名前:Christmas Memory 〜ふたつの願い〜/ヴァイオリン[sage]:05/02/13 11:15:54 ID:Ilf6NeFX

●27
入り口のキツイ締め付けを越えた後は、無数の襞が微細に蠕動し、ぬめりながら千秋自身に絡みつき、
どこまでも吸い上げる。
膣内の中は溢れんばかりの蜜で溢れかえり、火傷しそうなほど熱い。
まるで溶けてしまいそうだった。
生でするという行為は責任感の強い千秋にとって未知なる体験であったが、そのあまりの凄さに頭の中が真っ白になる。
直に接するのだめの中は、熱くきつく、何か別の生き物が住んでいるかのようにのたうちまわりながら絡みつき、
千秋を逃すまいとどこまでも吸い上げる。

ようやく最奥まで到達し、のだめはふおぉと吐息を漏らした。
そのまま、馬乗りになって千秋を見下ろしながら両手を逞しい胸に乗せた。
「……上になるのは初めてだけど…動けるか……?」
のだめを見上げながら、今までの反撃とばかりににやりと笑う。
「……余裕なのは、今だけデスよ…?真一くん!」
生意気にも、ひょっとこ口で返される。
なっ!?と思ったらのだめがゆっくりと動き始めた。
両手で千秋の胸板をぎゅっとつかみながら上下に腰を振る。
襞と亀頭が激しく擦れ合い、するどい快感が全身を貫いてあやうく暴発しそうになり、千秋は腹筋に力を入れて必死に堪えた。
結合部からは互いの蜜が混ざり合って溢れ出し、ぐちゅぐちゅと淫靡な水音が響いた。
流れ出した愛液は白い泡で縁取られ粘性をともなって互いの太ももを濡らしながら、ゆっくりシーツへと流れていった。
綺麗な円錐形をした豊かな胸が、目の前でたぷんたぷんと優雅に踊る。
たまらなくなった千秋は両手を伸ばして、その白いたわわな果実を揉みあげる。
千秋の大きな手でもありあまりほど大きなそれはどこまでも柔らかく、揉みあげるごとに形をかえ存分に楽しませた。
指先で、ピンク色に染まった乳首をコリコリと摘んでやる。
「あっ!あん!やぁん!あぁ!」
リズムに合わせて、のだめが可愛く啼く。
普段の無邪気な少女の顔はどこにもなく、紅潮した顔に淫靡な表情を浮かべながら千秋を見下ろしている。
まるで千秋を支配しているようなそんな倒錯した表情をしていて…なんだかそれが千秋には面白くない。
のだめのくせに…お灸をすえてやらないと……。

111 名前:Christmas Memory 〜ふたつの願い〜/ヴァイオリン[sage]:05/02/13 11:17:17 ID:Ilf6NeFX

●28
いきなり千秋は腰を下からを激しく突き上げる。
「むきゃあっ!」
いきなりの千秋の反撃にのだめは思わず悲鳴を上げながら跳ねた。
「……ああああぁっ!…いっちゃっ……!」
全身を震わせながら痙攣している。
そんなのだめが落ち着く間もなく、千秋はまるで振り落とすかのように、激しく突き上げる。
必死にしがみ付いてくるのだめを、身体を起こして抱き締めながら舌を絡ませ唾液を送り込み、さらに激しく腰を突き上げた。
向かい合わせで抱き合いながら、のだめの揺れる胸を口いっぱい頬張り、乳首を舌先で転がす。
「ひゃあん!あんっ!やあんっ!」
のだめは千秋の背中にすがり付きながら甘い啼き声を上げる。
ベッドがギシギシと軋み、まるで壊れそうだった。
千秋は互いの結合部に右手を差し込み、蜜でぐしょぐしょののだめの蕾をぐりぐり押し潰した。
途端にきゅうきゅうとさらに締め付けがきつくなり、千秋はますます追い詰められる。
まるでサウナに入ったかのように全身から汗が滝のように流れ、互いの結合部からはとめどなく愛液が温泉のように湧き出して、
互いに溶けてゆくような感覚に襲われる。
このままふたり一緒にどろどろに溶けて、ひとつになってしまえばいい。
そしたら永遠におまえと一緒にいられるのに―――
薄れてゆく思考の中で、千秋はぼんやりとそんなことを考えていた。
「……シ…ンイチ…くん……の…だめ…もう……」
千秋に必死にすがり付きながら、息絶え絶えに懇願する。
「……め…ぐみ…いっ…しょに……」
―――いこう―――
どちらともなく舌を絡ませ、唾液を混ぜあい、口内を激しく蹂躙する。
上下からぐちゅぐちゅと湿った音が部屋中に響き、その音にますます煽られる。
千秋は円を描くように腰を動かし、ベッドのスプリングの反動も利用してさらに激しく突き上げる。
シーツは乱れきり、互いに汗で濡れた髪を振り乱しながら激しく求め合う。

112 名前:Christmas Memory 〜ふたつの願い〜/ヴァイオリン[sage]:05/02/13 11:20:22 ID:Ilf6NeFX

●29
千秋は身体の中心からせり上がってくる射精感に限界が近づいてくるのを感じとった。
「……ああああああぁぁっ……!!!もう…ダメ……いっちゃ…う!!!」
「……うぁあ…い…くぞっ……!!!」
ほぼ同時に叫びながら互いに頂点まで上り詰めた。
全身に強い射精感が走りぬけ、千秋はのだめの中に白濁した欲望を勢いよく吐き出した。
それは激しく痙攣しながら収縮した膣内の中に、飛沫を浴びせながら飲み込まれていった。
「……あぁ…熱…い…」
のだめが千秋の欲望を感じ取りながら小さく呟くのが遠のく意識の中で聞こえた。
視界が真っ白になり、互いに抱き合ったまま、崩れるようにベッドに倒れこむ。

しばらく室内には互いの荒い息遣いだけが響いていた。
全身が弛緩し、情事後特有の気だるさに襲われる。
だがこの気だるさを共有するのが、何より愛おしい存在であることがたまらなく心地良い。
互いの繋がりを解かないままみつめあい、汗で濡れた髪を優しくまさぐりながらそっと口付ける。
くちゅっ、くちゅっという湿った音が響き、互いの唾液を飲み干す。
のだめの中はいまだ千秋自身を優しく包み込み、うねるように絡みついたままだった。
「……真一くん…あの…よかった…デスか……?」
しばし放心状態だったのだめが、おずおずと口を開く。
それは、先ほど見せていた大人の女の顔ではなく―――いつもの童顔だった。
そんなのだめの顔に千秋は内心ホッとしつつ、先ほどまでこいつに焦らされていたということを思い出し、
とたんに恥ずかしさと悔しさでいっぱいになり、ぐったりとベッドに沈んでしまった。
……オレとしたことが……こいつにあんなにも翻弄されるなんて……千秋真一一生の不覚……!!!
「……ああ…まぁ…よかった、けど……?」
本当はあんなに凄いのは生まれて初めてだったが、こう返すのがやっとだった。
「うきゅー、喜んでもらえてよかったデス…♪ミルヒーにも後でお礼言わないと……」

……な、に……?
「……オイ……ジジイが、どうしたって……?」
自然と声が低くなるのが自分でもわかる。

113 名前:Christmas Memory 〜ふたつの願い〜/ヴァイオリン[sage]:05/02/13 11:21:40 ID:Ilf6NeFX

●30
のだめはその声に一瞬ビクつき、おずおずと千秋の顔を上目づかいで見上げる。
……くっそー、可愛いじゃねーか……
そんな場合ではないのに、不覚にも千秋はそんな子猫のだめにときめいてしまった。
「うきゅー…実はミルヒーからも、クリスマスプレゼント貰ったんデス…先輩を虜にするための、
 のだめ魔性の女化計画で……」
のだめはうつむき、両手の人差し指をつんつんしながら恥ずかしそうに言う。
「何の計画だそれはー!一体ジジイから何貰った〜!!」
「離れていても先輩が浮気しないように、のだめの魅力をアップして虜にさせるための計画です。
 しっかり勉強しなさいってマニュアル本とビデオ貰って、とりあえず初級、中級編で勉強したんです……」
……ジジイの差し金だったのか……。
がっくり脱力し、再びベッドに沈んでしまう。
「…あのー先輩?ミルヒーからクリスマスカード預かってるんですけど…」
そんな死んでるオレに、のだめはおずおず声をかける。
仕方なく手渡された封筒を開封し、ヒイラギのの添えられたクリスマスカードを開けると、
Silent Nightのメロディのオルゴールが流れ出した。

『親愛なる千秋へ

 私からのクリスマスプレゼント、気に入ってもらえたかな?
 きっと満足してくれていると確信しているよ。
 こんな私にキミはますます敬意と尊敬の念を抱くであろうということも。
 では、のだめちゃんと楽しいクリスマスを。
 Merry Christmas!
 
                 フランツ・フォン・シュトレーゼマン

 
 PS.感想よろぴくネ♪                      』

114 名前:Christmas Memory 〜ふたつの願い〜/ヴァイオリン[sage]:05/02/13 11:22:55 ID:Ilf6NeFX

●31
「あんのぉ〜エロジジイ〜〜!!!」
千秋の手の中でカードはグシャリと潰れ、メロディがぶつりと途切れた。
くっそー、これは年明けにジジイに会った時、死ぬほど遊ばれるな……。

そんな千秋の気持ちを知ってか知らずか、のだめはおずおず話しかける。
「あのー先輩?上級編は先輩と一緒に見なさいってミルヒーから言われたんデスけど…一緒に見ます?」
「誰が見るか〜!そんなビデオさっさと捨てろー!!」
「え〜もったいないデスよ。のだめ1人で見ちゃいマスからね?」
「勝手にしろー!!!」
「あと情事中は下の名前で呼びあうのがいいって書いてたんですけど、どでしたか?よかったらこれからも……」
「誰が呼ぶか〜!!!」

まったく…そんな勉強なんかしなくても、もう十分魔性の女だろうが。
こんなにもオレを狂わせることが出来るんだから……。
それにしても、ビデオと本を見ただけであんな凄いテクニックを身に付けられるなんて、どこまで凄い集中力なんだ……。
これで、上級編を勉強された日には末恐ろしい。
楽しみなようなようなそうでないような…。
しかし……このまま終わったら男としてあまりにもふがいなさ過ぎる。
せめてのだめにだけはリベンジしないとな……

115 名前:Christmas Memory 〜ふたつの願い〜/ヴァイオリン[sage]:05/02/13 11:24:09 ID:Ilf6NeFX

●32
そんな思いを抱きつつ、千秋は身体がべとつくことに不快感を覚える。
シーツもグシャグシャで、改めて先ほどの情事の激しさを思い知らされる。
しかし、ふと絶好のリベンジの方法を思いつき、千秋は心の中でほくそ笑んだ。
「…なあのだめ、風呂入ろっか?」
のだめを優しく抱きながら、そっと囁く。
「そデスね…。のだめもなんだか気持ち悪いし…」
「じゃ、行くぞ。このまま抱っこしてってやろう」
「……あの〜先輩…?」
「どうした?」
「どうして風呂場に行くのに、このままなんですか!?それになんでこんなカッコ……」
千秋のそれは先ほどから繋がりを解かぬまま、のだめの中で硬さを復活させたまま入っていた。
千秋は、のだめの両腕を首にまわさせ、向かい合わせのまま抱っこをし、両手でお尻を支えたまま立ち上がった。
「……やぁん……!!」
千秋自身がズンッ!と勢いよくのだめの最奥を貫き、あまりの衝撃にのだめは悲鳴をあげた。
歩くたびに、千秋自身が奥深くに突き刺さり、のだめは息苦しさのあまり息継ぎが満足にできない。
繋ぎ目からは、混ざり合った互いの愛液が、重力に従って粘性を伴いながらゆっくりと落ちていく。
「…なんだ?こんなカッコはビデオで勉強しなかったのか?」
からかうように千秋が聞く。
「……し、知りまセン……!」
真っ赤になってのだめがそっぽ向く。
「のだめ、今度はオレのリベンジの番だからな。覚悟しとけよ?」
怯えながら上目遣いに見上げる子猫のだめに、いたずらっ子のように笑いかけながら、
千秋はバスルームへとゆっくり、じらすように歩いていった。

116 名前:Christmas Memory 〜ふたつの願い〜/ヴァイオリン[sage]:05/02/13 11:27:48 ID:Ilf6NeFX

●33

「……あっ…!…セン、パイ…や!…やぁん……あぁっ…!」
のだめの可愛い啼き声と熱い膣内を存分に楽しみながら、バスルームに辿り着く。
乾燥防止のために湯を張ったままのバスタブに千秋は足を入れ、のだめをしっかり抱えたまま慎重に沈めていった。
少しぬるくなったお湯は、2人のべとついた肌をやさしく包んでいく。
千秋がコックを捻ると熱いお湯が流れ出し、そのまま千秋はそっとのだめを抱きしめ、優しく、そして深く口付ける。
「……んっ……はぁ……」                      
舌を絡ませる音も、零れる吐息も、すべて流れる水音にかき消される。
ようやく唇を離した千秋がコックを閉めると、静寂が2人を包み、千秋は愛おしげにのだめを見つめた。
「おまえ、オレの留守中にこの部屋に入りびたりだっただろ?」
「な、何のことデスか…?」
「オイ…目をそらすんじゃねえ!たくっ…本気でごまかしたいなら、アレ、ちゃんと隠しとけよな……」
乱暴な言葉とはうらはらに優しい口調で、バスタブの傍に置いてあった千秋のではないバスセットに手を伸ばす。
可愛らしい花柄の洗面器の中に、ハート形のスポンジと高級バスセット一式が入っていた。
「……珍しいな。おまえがこんな高級なのを使うなんて」
カモミールの絵が描かれたバスジェルを手に取る。
「……むきゃ…実はそれもミルヒーからの……」
「クリスマスプレゼントか!?」
「……エヘヘ…のだめ魔性の女化計画第2弾デス……」
バツが悪そうにのだめは笑う。
……たくっ、あのエロジジイ……。
くっそー……こうなったらもう毒を食らわば……だ!
半ばヤケクソ気味にバスジェルを風呂に流し込んだ。
たちまち、バスルームはカモミールの、まるでリンゴのような甘い香り広がる。
少し動いただけでしゃぼん玉が生まれ、2人を虹色に包んでいく。
「……なんか、アレだな……」
……すっげー気持ちいい……
先ほどまでの腹立たしさも忘れ、のだめを抱きしめながら千秋はうっとりと目を瞑った。

117 名前:Christmas Memory 〜ふたつの願い〜/ヴァイオリン[sage]:05/02/13 11:28:59 ID:Ilf6NeFX

●34
「うきゅー、いい匂いでショ?フランクもユンロンも『最近のだめいい匂いがするね』って褒めてくれたんデスよ〜♪」
「……おまえ、これ使用禁止!」
「ぎゃぼー!なんでデスかー!」
「うるさい!こんなエロジジイから貰ったものなんか使うんじゃねー!!」
「先輩のオニ!横暴ー!先輩はやっぱりカズオです〜!!」
「やかましい!とにかくオレと一緒の時以外には絶対に使うんじゃねぇ!」
思わず声を荒げると、のだめは驚いた表情で千秋の顔をマジマジと見つめ―――
「先輩…もしかして、ヤキモチですか…?」
「なっ…!?なに言って…」
ズバリ言い当てられ、思わずうろたえる。
「うっきゅっきゅー♪先輩可愛いデスね〜♪」
得意気な顔で千秋の頭をなでなでする。
「……オイ…調子に乗るってんじゃねぇぞ……」
千秋はのだめの背中をバスタブの縁に押し付け、細くて柔らかい太ももを両手で抱えた。
只ならぬ気配を察知して戸惑うのだめの顔を覗き込みながら、低い声で言う。
「……覚悟しろ」
そして―――渾身の力を込めて突き上げる!
「ひゃあぁっ…!!!」
いきなりの衝撃にのだめは悲鳴をあげて仰け反った。
「……やあぁっ…!…いっちゃっ……!!」
油断していたのだめは、衝撃に耐え切れず一気に頂点まで登りつめる。
身体中を激しく痙攣させながら手足を伸ばし、千秋の背中に必死にすがりつく。
激しく収縮する膣内で、危うく暴発しそうになるのを奥歯を噛み締めて必死に堪え、いまだきつい締まりの中で、
突き上げを開始する。

118 名前:Christmas Memory 〜ふたつの願い〜/ヴァイオリン[sage]:05/02/13 11:30:03 ID:Ilf6NeFX

●35
「…やあぁぁっ!…まだ…動いちゃ…セン、パイッ…!」
悲鳴をあげるのだめに構わず、腰を激しく打ち付けると、お湯がじゃぶじゃぶと大きな波を立てて2人に打ち寄せる。
波が立つたび、虹色のしゃぼんが生産され甘い情事を包んでゆく。
甘いリンゴの香りの湯の中で、千秋はのだめのすべらかな肌に唇をよせ、情欲の証を刻む。
熱い湯の中で繋がりに手を伸ばすと、そこは明らかにジェルとは異なる粘性をともなったぬめりが溢れ出ていた。
突起をぐりぐりと押しつぶすと、
「きゃああぁっ!」
とたちまち悲鳴をあげ、狭い膣内がさらに収縮し、手に感じるぬめりがさらに広がる。
湯の中でしゃぼんの中で見え隠れする、ピンク色に染め上がったたぷたぷと揺れる豊かな胸を口一杯に頬張り、
尖りきった乳首を舌先でちろちろと舐め上げる。
「……あぁっ…!…やぁんっ…!…センパッ…!…」
たまらないという風にのだめは千秋の頭に縋り付きながら、頭をイヤイヤするように激しく横に振る。
のだめを湯の中で抱え上げ、熱いのだめの中を激しく突き上げながら、むさぼる様に口付けを交わす。
皮膚がぶつかりあう音も、絡めあう唾液の音も、すべて打ち返す水音と混ざり合いバスルームに反響する。
のだめの膣内はお湯と愛液と残留した千秋の欲望が混ざり合い、それらが千秋自身にねろねろと絡みつきながら
きゅうきゅうときつく締め上げ、離すまいと最奥へどこまでも誘い込む。

視界は虹色に染まって快楽に溺れた表情を彩り、耳からは甘い啼き声と打ち寄せる水音がこだまし、
甘いリンゴの香りが鼻腔をくすぐり、舌を絡めとるとその唾液はどこまでも甘く、
肌は白くすべらかで、その膣内は官能のるつぼのように千秋をどこまでも引き込む―――
五感を十二分満たされた千秋の情欲は、どこまでも増幅していった。

119 名前:Christmas Memory 〜ふたつの願い〜/ヴァイオリン[sage]:05/02/13 11:31:40 ID:Ilf6NeFX

●36
視界が再び白くぼやけ、思考が停止し始める。
―――まただ―――
身体がどろどろ溶けて……のだめとひとつになるこの感じ……。
のだめ以外で、過去にこんなのを感じたことはなかった。
この腕の中の存在が何よりも愛おしくて、愛おしくて……。
魂ごとおまえとひとつになりたいと強く願う。

「……センパッ…なん、だか…の、だめ…すごく…へ、ん……」
息絶え絶えののだめの嬌声に、手放しかけてた意識が少し戻る。
「……どうした……?」
のだめの頬を両手で挟み、優しく覗き込む。
「……なん、だか…か、らだが…とけちゃ、いそうで……のだめ……」
その長い睫に縁取られた大きな瞳は、未知なる感覚への不安の色に染まっていた。

「……大丈夫……オレも……同じ、だから……」
そう言いながら、優しく口付ける。
そっと、まるで壊れ物を扱うかのように優しく……。
「……溶けて……オレと、ひとつに……なろ……?」
そうのだめの瞳を覗き込みながら優しく囁くと、のだめの不安の色は消えいつもの笑顔が広がる。
のだめは千秋にすがりつき、足を腰に絡ませてくる。
繋がりはより一層深くなり、未知なる快楽へと誘う。
「……セン、パイ……すき……だいすき……!」
「……知ってるよ……」
そう言いながら、強く強く抱きしめる。
そう、オレだって……この気持ちを、昔のようにもうごまかしたりなんかできない。
―――この世の誰より、おまえが好きだ―――

120 名前:Christmas Memory 〜ふたつの願い〜/ヴァイオリン[sage]:05/02/13 11:32:46 ID:Ilf6NeFX

●37
せりあがる射精感に再び限界が近いことを知る。
視界がぼやけ、のだめの甘い嬌声がフィルターがかかったように遠のき、全身に甘い痺れが広がってくる。
「……セン…パ…の、だめ……も……」
「……オレ…も…い…くぞ……」
千秋はのだめを縁に押し付け、足を両脇に抱え上げて、その中心に怒涛の勢いで自身を打ち込む。
お湯はバスタブから勢いよく溢れ出したが、もう何も考えられなかった。
思考を占拠するのは、この腕の中の愛おしい存在だけ―――
「……やああああぁっ!……もう…だめっ……!!!」
「……うっ……あああぁっ……!」
再び同時に登りつめ、視界が輝くように真っ白になり、互いに意識を手放した。
勢いよく飛び出した欲望は、これ以上ないほど収縮したのだめの膣内に一滴残らず吸い込まれていく。
そこはいまだにひくつきながら、千秋自身をどこまでも優しく包み込む。
そこからじわじわと甘い痺れが広がり、全身がまるで溶けていくようだった。

互いに全身が痙攣し、そしてゆっくりと弛緩しながらバスタブに沈みこむ。
2人の荒い息遣いと打ち寄せる波音が千秋の敏感な耳に反響し、それが手放していた意識を取り戻させた。
白く輝く世界から帰ってきた千秋は、気だるさの中、ゆっくり瞳を開けてのだめを見る。
「……のだめ……?」
のだめは、いまだ眠りの国の住人のままだった。
ピクリともせず、ただ長い睫を震わせながら、わずかに開いた唇から静かに吐息を漏らすのだめは、
まるで魔法をかけられた眠り姫のようだった。
千秋はそっとのだめを抱きしめ、優しく頭を撫でた。
濡れた髪から甘いリンゴの香りがし、肩に熱い吐息が零れ、千秋の胸に改めて愛おしさがこみあげてくる。

ずっと、ずっとおまえと一緒にいられたら―――
今、この瞬間が永遠に続けばいいと思う。
そんな願い、叶うはずないことなどわかっているのに―――

121 名前:Christmas Memory 〜ふたつの願い〜/ヴァイオリン[sage]:05/02/13 11:33:45 ID:Ilf6NeFX

●38
千秋は、そんな思いを振り払うかのように、そっとのだめに口付ける。
眠り姫にかけられた魔法を解く、王子様のように……。
「……んっ……」
千秋の熱に触れ、のだめがようやく眠りの国から帰ってきたようだった。
「……お目覚めですか?眠り姫……」
のだめが正気の時には、けっして口が裂けても言えない甘い言葉を囁く。
「……あ…れ…?…ここ……?」
どうやら記憶も若干混乱しているらしい。
……ちょっと、無茶させすぎたか……。
先ほどのの激しい情事を思い出し、さすがに反省する。
「……大丈夫か……?ほら、しっかりしろ」
そう言いながら、いまだにふらつくのだめを身体ごと支える。
そっと抱きしめながらバスタブの栓を抜き、激しい情事の残り湯を流してゆく。
ゴボゴボと渦を巻きながら流れていき、後には虹色のしゃぼんが大量に残った。
それから、思い出したように2人の繋がりを解く。
それはいまだにのだめの中にしっかりと吸い込まれ、なかなか抜き出せなかったが、
両手でのだめの腰を掴み、思いっきり押しのけると、ようやくずるりと出てきた。
そこから甘い余韻とともに、2人の混ざり合った白濁した愛液が堰をきったかのように大量に溢れ出し、
虹色の中に溶け込んでゆく。
手を伸ばしてシャワーヘッドを掴み、互いをゆっくり洗い流してゆく。
熱い湯に打たれ、ようやくのだめも少しずつ意識を取り戻しつつあった。
「……センパイ……のだめ……気絶、してたんデスか……?」
「……まあな……悪かったな、無茶させて……」
そう言いながらコックを閉め、バスタオルでのだめの身体を優しく拭いた。
「もう寝よう。お互い頑張りすぎだな、今夜は」
「頑張りすぎたのは、先輩ひとりじゃないんデスか?」
と言うのだめのつっこみは、聞こえなかったことにした。

122 名前:Christmas Memory 〜ふたつの願い〜/ヴァイオリン[sage]:05/02/13 11:35:54 ID:Ilf6NeFX
●39

のだめを抱き上げて寝室へ向かうと、時計の針はすでに5時過ぎを示していた。
……マジで、頑張りすぎたな……
苦笑いをしつつ、のだめをバスタオルに包んだままソファに横たえて、くしゃくしゃになったシーツを取り替える。
それからのだめをベッドに運ぶ前に、いつの間にか剥がれてしまった湿布を貼りなおす。
「悪かったな、無茶して……大丈夫か?」
「……先輩、今の今までこの怪我のこと忘れていまセンでしたか?」
「な、なわけねーだろ!?何言ってんだ…たく……」
「なに目逸らしてるんデスか!……別に大丈夫ですよ。それにのだめも痛みを気にする余裕なんて、
 とてもじゃないけどなかったですから」
「……悪かったなっ!……」
ちょっとふて腐れ気味の千秋に、のだめはうきゅっきゅー♪と笑う。
改めてのだめを抱き上げて、素肌のまま真新しいシーツに横たえ、千秋もそのまま姿でのだめの傍らに滑り込んだ。
柔らかい素肌を直に感じ、そっと腕枕をしてやりながら抱き合うと、互いのぬくもりが伝わってきてたまらなく心地よかった。
「……先輩、今はもう無理デスよ……?」
「……さすがに、オレも今は無理だから安心しろ……」
心地よい疲労感が漂う中、クスクスと笑い合う。
「……先輩……」
「……ん……?」
「……すっごく素敵なクリスマス、ありがとうございました……」
「……バーカ……まだクリスマス、終わってないだろ?……とびっきりのご馳走、楽しみにしとけよ……?」
そっと、のだめの柔らかな髪を撫でる。
「……来年も、再来年のクリスマスも、ずーとこうやって先輩と過ごせたらいいのにな……」
その言葉にドキリとする。
「……そうだな……」
ぼんやりと遠くをみつめる。
「これから先も、ずっとずうーっと先も、先輩とこうしていたいな……」
千秋は黙ってのだめの髪を撫で続けた。

123 名前:Christmas Memory 〜ふたつの願い〜/ヴァイオリン[sage]:05/02/13 11:36:35 ID:Ilf6NeFX

●40
「……真一くん。またどっか行くんですか……?」
その声はどこか寂しそうで、千秋の胸を締め付けた。
「年明けに、ベルリンで客演に呼ばれてて、あとプラハにも呼ばれてる。2月位には帰ってくると思うけど……」
「そう…ですか……」
千秋はのだめの頭を抱き寄せ、そっと額にキスを落とした。
「ゴメンな?」
……寂しい思いをさせて……。
「へーきですよ。のだめ頑張って留守番しますから。ピアノも家事も頑張りマス!」
「ピアノはともかく、家事はなあ……」
「うぎっ!先輩バカにしてますね?のだめちゃんと頑張ってるんですよ?この前なんかターニャにボルシチの作り方を教えて
 もらったし、フランクもユンロンもおいしいって珍しく褒めてくれたんデスからね?」
「……ふーん……」
千秋は、のだめを抱く腕の力をより一層強めた。
「だから先輩も心配しないで、お仕事頑張って下さいネ!」
「……べつに、心配なんかしてないけど……」
「今度、先輩にもボルシチ作ってあげますね♪楽しみにしてて下さい」
「無理すんなよ?くれぐれも指を切らないようにしろよ。大事な選考会の前なんだし。あと、オレがいなくてもちゃんと
 ピアノの練習やれよ?わからないことがあったら、いつでも携帯にメールしていいからな?あと……」
「もう!先輩過保護すぎデス!もっとのだめを信用して下さい!」
「なっ!?過保護って……」
「頼むから自立した生活してくれって言ったの先輩じゃないですか。ピアノだってのだめにはちゃんとオクレール先生が
 いるんだし。のだめはもう、先輩がいなくても1人でちゃんとやってけマス!」

124 名前:Christmas Memory 〜ふたつの願い〜/ヴァイオリン[sage]:05/02/13 11:37:26 ID:Ilf6NeFX

●41
のだめがその言葉を、深い意味で言ったんじゃないってことぐらいわかってる。
わかってるけど……でも……。
オレのことなんかもういらないって言われたような気がして……ショックだった。
甘やかしたらいけない、自立させなければいけないと思っていたのに、いざそんな風に言われるたまらなく不安になる。
おまえがどんどん成長して、オレの腕の中から飛び出していくのが……怖い。
先輩なんかもういらない、必要ないと言われるのが……怖い。
おまえを……失いたくない………!!!
「せ、先輩…?苦しいデス……」
その声にハッと我に返ると、のだめを強く強く抱き締めている自分に気付いた。
「あ、わりぃ……」
慌てて腕を緩める。
「……先輩?どしたんですか……?」
心配そうに千秋の顔を覗き込む。
「……べつに、なんでもねー……」
そんなのだめの顔をまともに見られずに、瞳を閉じた。

なぜだろう……今がこんなに幸せなのに、ときどきどうしようもないほど不安になる。
のだめをこの腕に抱いているのに、のだめもオレのことをこんなにも愛してくれているのに……。
なぜか、この幸せが失われた時のことを考えてしまう自分に気付く。
こんな仕事をしてるから、いつでも一緒にいられるわけじゃない。
この先、のだめがピアニストとして成功したら尚更、すれ違いの日々が続くだろう。
おまえが前みたいに迷った時、つらい時、泣きたい時に、きっとただ傍にいてやることさえできない。
いつかその寂しさを埋めるために、のだめが手を差し伸べてくる他の男の手を取ってしまうとも限らない。
もしそうなったら、おまえを失ったら……オレはどうなのだろう。

オレが帰ってきたら、おかえりなサーイ♪と言いながら笑顔で抱きついてきてくれて。
オレが作ったご飯をおいしそうに食べてくれて。
オレの話を楽しそうに聞いてくれて。
オレの音楽を聴くのが大好きだと言ってっくれて。
オレのために弾く、おまえの楽しげなピアノを聴く。

125 名前:Christmas Memory 〜ふたつの願い〜/ヴァイオリン[sage]:05/02/13 11:38:38 ID:Ilf6NeFX

●42
そんなささやかかもしれない―――だが、かけがえのない幸せを手放すことなんかもう出来やしない。
もう、おまえ以外の女なんか愛せない。
おまえがいないと、オレはだめだ。
のだめを抱いている時にいつも感じる、このままひとつになりたいと思う気持ちは、この不安からきているのだろうか……?
ひとつになればずっと離れなくてすむ………だから……。
自分はこんな情けない男だったのかと、激しい自己嫌悪に襲われる。

「……情けねー……」
「どーしたんですか?先輩…?」
思わず出た独り言をのだめが聞き咎め、心配そうに千秋の顔を覗き込む。
「なんでもないないから…気にするな…」
優しくのだめの頭を撫でる。
「そだ、先輩!CDかけてもいいですか?最近いつも聴きながら寝てるんです」
「いいけど…何の曲?」
「ラフマニノフの2番です。イメージトレーニングのために、このCD毎晩聴いてるんですヨ♪」
千秋を心配してか、大げさなほど明るい声で言いながら、のだめはベッドサイドに置いてあったCDプレーヤーの
リモコンに手を伸ばす。
その時、はらりと2枚の紙がリモコンの傍から舞い、千秋の顔に落ちてきた。
「なんだ……?」
手を伸ばし、薄明かりの中で見ると、それは折り紙で、願い事が書かれていた。

『ピアニストとして成功して、先輩といつかコンチェルトが出来ますように♪ のだめ』
『先輩とこれからもずっとずっと一緒にいられますように♪         のだめ』

……これ……
「あ!これ先輩にもぜひ名前書いて欲しくて、まだ飾ってなかったんですよ。
 このふたつの願い事は、一緒に叶えたかったったから……って先輩?どしたんですか?」
「……のだめ…おまえ、オレの母さんとなんか話した?」
「いえー、べつに。いったい何の話ですか?」

126 名前:Christmas Memory 〜ふたつの願い〜/ヴァイオリン[sage]:05/02/13 11:39:37 ID:Ilf6NeFX

●43
「……いや、そうだよな……。わるい、なんでもない……」
「いったいどうしたんですか?先輩さっきから変ですヨ?」
「いいから早くCDかけろって…」
納得できない顔で千秋の顔を眺めていたがのだめだったが、無駄だとあきらめてCDプレーヤーのスイッチを入れた。
やがて、鐘の音を思わせる和音が静かな室内に響いて、完全に暗譜した美しいメロディが流れ出した。
……そうだよな……あいつが知ってる、はずがない……考えすぎだ……。
のだめの頭を撫でながら、瞳を閉じて美しいメロディに耳を傾ける。
甘く、優しく、どこか懐かしいピアノの調べを聴いてると、なぜか古い記憶が蘇ってきた。
もうすっかり忘れていた、幼い、子供の頃の、……。
突如、ある記憶がよみがえり、一気に覚醒する。
慌ててCDのケースに手を伸ばす。
「先輩?どしたんですか?」
驚くのだめを無視して、ベッドサイドに置いてあったCDケースに書かれていた内容を確認する。

『セルゲイ・ラフマニノフ 
 
 ピアノ協奏曲 第2番 ハ単調 作品18
 ピアノ 千秋雅之 
 ベルリン・フィルハーモニー交響楽団
 指揮  フランツ・フォン・シュトレーゼマン   
 録音  1986年12月           』

「のだめ…これ……」
……オレが5歳の時の、父さんの初めてのクリスマスコンサートの時の……。
「あ、それこの前ミルヒーがくれたんですよ。今度ラフマニノフに挑戦するって言ったら
 応援するからこれ聴いて勉強しなさいって、わざわざ日本で買ってきてくれたんですよ♪」
……もしかして……気がついてない……?
ジジイは当然気付いてるんだろうけど。

127 名前:Christmas Memory 〜ふたつの願い〜/ヴァイオリン[sage]:05/02/13 11:41:13 ID:Ilf6NeFX

●44
「のだめ……CD止め――」
「すっごく素敵なメロディですよネ!優しくて、綺麗で、愛おしさに溢れてまるで……」
心地よさそうに美しい旋律に耳を傾けながら、まるで猫のように千秋の胸に柔らかな身体を摺り寄せる。
「……まるで…先輩のピアノみたい……」
その言葉にドキリとする。
遮られた言葉を今さら口にもできず、そのままのだめを抱き締めた。

……父さんのピアノは、母さんと離婚した時から一度も聴いたことがない。
CDでもテレビでも聴かないようにしてたし、当然公演にも行ったことがない。
だから、父さんのピアノを聴くのは本当に久しぶりで……懐かしさに不覚にも胸が熱くなった。

―――………頑張るから……、父さんおまえと母さんのために、頑張るから……―――

「……先輩……のだめ、頑張りマスから……」
ふいに思い出の声とのだめの声がリンクされる。
驚いてのだめを見ると、のだめは眠りの国の世界の住人になりつつあった。
「……頑張って、ピアノ頑張って、絶対追いついてみせマスから……だから……いつか……いっ、しょに……」
やがて声は途切れ、完全に眠りの国へ行ってしまったようだった。
「……のだめ……」
千秋は、最高に幸せそうな顔をしたのだめの柔らかな頬に触れた。
そして、さきほどの折り紙を見る。

……のだめ。おまえのこのふたつの願いは……

―――オレが3歳のクリスマスの時に、神様に願った願い事と一緒なんだよ―――

ひとつめの願いは、まだ無名の父さんが有名なピアニストになること。
ふたつめの願いは、家族がずっと一緒に仲良く暮らせますように。

128 名前:Christmas Memory 〜ふたつの願い〜/ヴァイオリン[sage]:05/02/13 11:42:20 ID:Ilf6NeFX

●45
幼かったオレは、このふたつの願いが相反するものだとは知らなかった。
だからこの願いが、両方叶うことはありえないということを、母さんはわかっていたのかも知れない。

父さんは翌年の世界最高峰のピアノコンクールで優勝した。
そして、売れっ子になった父さんは、やがて家に帰らなくなった。
母さんの愛情は、帰ってこない父さんから、やがてオレに移動した。
オレは父さんに帰ってきて欲しくて、母さんの言われるままに必死に音楽に取り組んだのに。
最初は見に来てくれていたコンクールにも、いつのまにか多忙を理由に来てくれなくなった。
やがて女を作って……オレが12歳の時、母さんと離婚した。
結局あの時のクリスマスが、家族で一緒に過ごした最後のクリスマスの思い出になってしまった。
あんなことを……願うんじゃなかった。
時々思わずにはいられない。

―――あの時、父さんの成功を祈らなければ…家族はバラバラにならずにすんだのだろうか?―――

「……うぅん……」
ふいに、腕の中でのだめが寝言を言う。
腕の中の愛しき存在を見ていてふと思う。
こいつがピアノで成功して、オレの元から羽ばたいて行き―――
そして……そしていつかオレの元に帰らなくなった時……オレは同じように後悔するのだろうか……?
3歳の時の自分を後悔したように………いつか今夜の自分を後悔する日がくるのだろうか……?
今夜のことを、若い頃の熱く激しい思い出として、傍にいないおまえを懐かしむ日がくるのだろうか……?

おまえにピアニストとして成功して欲しい。
おまえといつまでも一緒にいたい。

129 名前:Christmas Memory 〜ふたつの願い〜/ヴァイオリン[sage]:05/02/13 11:43:40 ID:Ilf6NeFX

●46
このふたつの願いは、永遠に相反するものなのかもしれない。
おまえが成功するということは、オレ達はそれだけ一緒にいられないということなのだから。
父さんがオレを必要としなくなって、オレの元を去ったように……いつかおまえもオレを必要としなくなって
オレの元を去る日が来るかもしれない。
……だけど、だけどオレは………。

「………?」
腕の中ののだめがもそもそ動いていることに気付き、見下ろすと。
のだめは幸せそうな笑顔で右手を動かしていた。
よく見ると、その細く長い指は鍵盤を弾くようにシーツの波間を泳いでいた。
その指の動きは―――
「……ラフマニノフ……?」
父さんの弾く甘い調べに合わせて、楽しげに音を奏でていた。
まるで―――その指から、きらめくような美しいピアノの音が聴こえてくるような気がした。
「……バーカ。こんな時くらいオレの夢を見れよな……」
口では悪態をつきつつ、千秋はこれ以上ないほど優しい瞳でのだめを見つめた。
そんな2人を、甘美な旋律が優しく包んでゆく。
千秋は再びその美しくも優しいピアノの旋律に耳を傾ける。
……やがてゆっくりと……懐かしい思い出がよみがえってくる。
父さんを憎むと決めた日から、記憶の奥底に封印していた、懐かしい―――

無名だった頃の父さんの観客はオレと母さんだけで。
だえど父さんは、オレ達だけのためにいつでもピアノを弾いてくれた。
オレは本当に父さんのピアノが大好きで……だからもっとたくさんの人に父さんのピアノを聴いてもらいたかった。

父さんが成功した時は嬉しくて嬉しくて、本当に嬉しくて。
やがて帰ってこなくなった父さんを、それでもずっと待ち続けた。
初めてのクリスマスコンサートの時、一緒に過ごせないと知って、聴きに行かないと拗ねるオレに、父さんはこう言ったんだ。
『頑張るから。父さん、おまえと母さんのために頑張るから…。だから真一も父さんのピアノを聴きに来て欲しい』

130 名前:Christmas Memory 〜ふたつの願い〜/ヴァイオリン[sage]:05/02/13 11:45:04 ID:Ilf6NeFX

●47
ふいに頬に熱いものが流れているのに気付く。
手で拭ってみて、それが―――涙であることを知った。
静かな室内で流れる旋律はどこまでも美しく甘美で…そして……そして愛情に溢れていた。

父さんが母さんを、愛しているという理由だけではなく、利用するために結婚したのも事実だろう。
父さんが母さんにさんざん貢いで貰って、成功したら愛人を作ってオレ達を捨てたのも事実だ。
父さんのようにだけはなりたくないと、ずっと思ってきた。
父さんのしたことを、今でも許す気にはなれない。
父さんに会いたいとも思わない。

でも……確かに父さんの奏でる旋律はどこまでも愛おしさに溢れていて―――
思い出の中の父さんは、今のオレのように幸せそうに笑っていて……あの時、確かにオレ達は父さんに愛されていたのだと思う。
オレがのだめのことをかけがえのない存在だと思っているように、父さんもオレ達のことそう思ってくれていたのかもしれない。

『ボク達は音楽でつながってる』
ふいにヴィエラ先生の言葉を思い出す。
それならば……オレと父さんも音楽でつながっているのだろうか……?
どんなに離れていても、会えなくても、音楽でオレや母さんに話しかけているのだとしたら……?
父さんを許す気はないし、会う気もない。
だけど……だけど今は父さんのことを知りたいと思う自分に気付く。
父さんの音楽を聴いて、どんな風に思っているのか、考えているのかを知りたいと思う。
そしていつか―――何年後になるかわからないけど、父さんのことを許せる日か来たら―――
父さんに会ってみようと思う。
オレ達のことをどう思っていたのか、愛してくれていたのかを知りたいと思う。

131 名前:Christmas Memory 〜ふたつの願い〜/ヴァイオリン[sage]:05/02/13 11:46:53 ID:Ilf6NeFX

●48
腕の中ののだめを見つめると、相変わらず幸せな顔で旋律を奏で続けていた。
いつか、オレが父さんに会う時に……オレの傍にいて欲しい。
オレの手を握りながら、大丈夫だとオレを励ましていて欲しい。
どうかその時、おまえがオレの傍にいてくれますように―――

先のことなんてわからない。
こんな世界だから、成功するかなんてわからないし、どんな困難が待っているのかもわからない。
おまえが道に迷って挫けそうになった時に、すぐ傍で支えてやれないかもしれない。
ふたり離れ離れになって、会えない月日が流れて、やがてお互い自らの意思でこの手を離す日がくるかもしれない。

―――だけど―――

そっと、のだめの指に手を伸ばす。

―――だけどオレは―――

父さんの奏でる美しい旋律を弾くのだめの指に合わせて。

―――おまえの成功を願わずにはいられない―――

かつての音楽室でのように、連弾した。

そして―――そっと瞳を閉じて、心の中で思い出の父さんの演奏を指揮する。


132 名前:Christmas Memory 〜ふたつの願い〜/ヴァイオリン[sage]:05/02/13 11:48:24 ID:Ilf6NeFX

●49

先のことなんてわからない。
オレ達がどうなるかなんて、神様にしかわからないだろう。
ただわかることは……おまえのピアノが、オレはどうしようもなく好きだということ。
オレだけじゃなく、世界中の人におまえのピアノを聴かせたいと願う。
オレがかつて音楽に絶望してやめようとしていた時、もう一度音楽の楽しさを思い出させてくれたように。
三善家に音楽が失われていた時、もう一度音楽を取り戻してくれたように。
世界中の人がおまえのピアノを聴いて、心の中に抱えている悲しみや苦しみが、少しでも癒されてくれたらと願う。
おまえのピアノにはそんな力があると、オレは信じてるから……。

この先おまえが道に迷った時、挫折を味わった時、オレはただ傍にいてやることさえできなくなるだろう。
だけど……心は傍にいるから。
どこにいても、おまえのことを想ってるから。
どんなに離れていても、心はおまえと一緒にいるから。

だからおまえも……自立して、1人でやっていけるようになったとしても。
オレのことを心の支えにしていて欲しい。
おまえがつらい時には、オレのことを頼って欲しい。
オレを必要としていて欲しい。
そう願うのはオレのエゴだとわかっているけれど……オレはおまえに必要とされていたい。

おまえが奏でるラフマニノフを聴いてみたい。
オレが指揮して、おまえが演奏して……きっと師匠が言うところの“最高に楽しい音楽の時間”になるだろう。
オレ達のコンチェルトは、きっと2人だけじゃなく、きっと未来のオレ達ファンの夢でもあると、
うぬぼれじゃなく確信している。

―――だから、2人で叶えよう。オレ達のふたつの願いを―――


133 名前:Christmas Memory 〜ふたつの願い〜/ヴァイオリン[sage]:05/02/13 11:49:46 ID:Ilf6NeFX
●50
あの頃はまだ何も知らない無力な子供で、オレはふたつの願いを両方叶えることが出来なかったけど。
今ならきっと、オレ達2人なら叶えられる―――今はそう信じたい。

やがて旋律が靄がかかったように遠のきはじめ、千秋も眠りの国の扉を開けて入っていった。
そしで……幸せな夢を見る。

オレはフォーマルを着て、S&Mと彫られた真新しい指揮棒を握る。
のだめは真紅のドレスを着て、胸元と左手にはハートのルビーが輝く
割れんばかりの拍手の中、2人揃って舞台にあがる。
聴衆に礼をし、のだめは椅子に腰掛け、オレは指揮台にあがった。
お互い顔を見あわせて微笑みあうと、のだめの手が鍵盤に落とされ、美しい和音を奏でだす。
オレは一気に指揮棒を振り下ろし、そして―――
最高に楽しい音楽の時間が始まった。

そんな幸せな夢を………きっとのだめも同じ夢を見ていることを確信しながら、千秋は深い眠りに落ちていった。


やがて空は白み始め、凍てついた雪を碧く輝かせてゆく。
遠くから鐘の音が鳴り響き、聖なる夜に終わりを告げようとしていた……。


 〜Merry Christmas for sweethearts〜


                           Christmas Memory 〜ふたつの願い〜 〜fin〜

134 名前:Christmas Memory 〜ふたつの願い〜/ヴァイオリン[sage]:05/02/13 11:54:29 ID:Ilf6NeFX
Christmas Memory 〜ふたつの願い〜 以上です。
だらだら、長くてすみませんでした。
題名付け忘れるし…。
千秋が簡単に雅之さんを許せるとは思えないのですが、
子供編を読んだ時、実は心の奥底ではお父さんを慕っていたのではないかなと。
ヴィエラ先生を慕っていたのは、音楽の面だけではなく、お父さんの代わりとして
見ていたのではないかなと、勝手に解釈してしまいました。
もし、イメージを崩したらすみませんでした。
では、長文失礼しました。


135 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:05/02/13 11:56:48 ID:PHljpPBd
ヴァイオリン さん

長編SS、お疲れ様でした!
リアルタイムで読ませていただきました。

細かいところまできめこまやかに練られた素晴らしい作品だと思います。

本当に「美味しゅうございました」!


136 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:05/02/13 11:59:34 ID:7v7AHwlq
bravo!!! 感動巨編をありがとう!!
すっごくエッチなのにストーリーがとても深くて、堪能しました
ヴァイオリンさん凄いね!!
最後のコメント、私も同じように思いました。
ラフマ聞きながら もう一回読もうと思います。

137 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:05/02/13 12:51:00 ID:/XZstGXf
ウ゚ァイオリンさん。
すごく良かった。
最初は笑いながら、中間は萌えながら、最後は涙ポロポロで読みました。
ありがとうございましたm(__)m

138 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:05/02/13 14:33:41 ID:g9Zs5zT8
はじめてこのスレにかきこ
のだめカンタービレのサイドストーリーノベライズ版ですね。ものすごく

   G   J   !!!     です!

大作最後まで読ませました。感涙
関係ないけどこのふたりイニシャル SとMなのか ははぁ

139 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:05/02/13 17:15:06 ID:CzbxRnY/
ヴァイオリンさん、ごちそうさまでした〜
アヘ〜(今月ののだめ風)

140 名前:けろりん[sage]:05/02/13 17:21:26 ID:aBK3LTSN
こんにちは。
初SS、投下します。エチー度はそんなでもないですが結ばれてはおります。
設定上、千秋のことを、勝手に「バッハ苦手」にしてしまいました。お許しを。
(フランス編冒頭でバッハのコンサート告知みて喜んでる場面あったのを
忘れてました)

141 名前:けろりん[sage]:05/02/13 17:22:41 ID:aBK3LTSN
『床の上』

■1

俺はバッハがあまり好きではない。
いや、それは嘘だ。ほんとうは−−−−。
***

夕食のあとは必ずピアノの時間。これは日本にいるときから変わらない。
それは、「デート」をする仲になった今でもだ。

「そろそろのだめ、部屋に戻りますネ。あ、だけど、センパイ最近眠りが浅いって言ってましたよネ?最後にいいもの弾いてあげマス」
と言ってのだめが弾き始めたのは、
バッハの「主よ、人の望みの喜びを」だった。
「なんで…この曲?俺、バッハはあんまり……」
「このあいだ征子さんに会ったときにきいたんですケド、センパイが小さいころ好きで、よく眠る前にレコードかけてあげたって言ってたんデスよ。覚えてマスか? 好きだったわりに、今はあんまりバッハ聴いてないみたいですよネ」

この曲を、俺が……?
…そうか。のだめのピアノの音にのせて、徐々に記憶が蘇ってくる。
まだ父が家にいたころかもしれない。
レコードだけではなく、父自身が弾くピアノの音を、姿を思い出した。そういえばあの人は、練習の初めには、必ず何かしらバッハの曲を軽く弾いていた。フーガや、ゴルトベルグ変奏曲や…俺はそれを聴きながら、一緒になって歌ったりしていたっけ。
そうだ、思い出した。父がバッハを好きだったんだ。
それでなのか?俺が今、あまりバッハが好きじゃない−−−フリをしているのは。


142 名前:けろりん[sage]:05/02/13 17:43:47 ID:aBK3LTSN
■2

「先輩のおじいさんもバッハの「マタイ受難曲」お好きだったんデスもんネ、ホラ、まえ三善のおうちに行ったとき言ってたじゃないデスか。おじいさんも先輩も好きなんだから、きっと先輩のお父さんも、バッハ、好きなんじゃないデスかね。やっぱり親子って、遺伝ですねー」
遺伝て、何言ってんだよ。知りもせず安直に断定する口調に、思わず吹き出した。
だが、それが真実を言い当てている。
吹き出しながら、雷に打たれたような気分になった。
…こいつは、どこまで分かって言っているのか。
おまえ、なーんにも考えず、いままで俺の心の中を縛っていた鎖を−−−断ち切った、って分かってるか?
……俺が、父親を許せないからって、彼が好きだったものを嫌いになる必要はないンだな…。
そんなの勿体ないし、音楽に対する冒涜だ。。
あったり前じゃねーか。今ごろ気付くなんて、俺は、バカか。

「のだめが弾くと、バッハってなんかややこしくてー、苦手だったんですけど、最近はいいなって思えるようになりましたヨー。これも学校で理論とか分析とかしっかりやり始めたせいデスかネー?」
そうだ先輩、今度バヨリンで無伴奏パルティータ弾いて聴かせてくださいヨ、ああでも無伴奏じゃのだめがピアノ弾けないからだめデスね、やっぱりフランクのソナタでも……
しゃべりながら弾き続けるのだめ。
俺はまた、のだめにやられたのか……。
思わず、愛しさがこみあげて。
ピアノに向かうのだめの背中から、そっと抱きすくめた。
「せ…センパイ?!」
「いいから弾き続けて」
「だって、もうこの曲終わっちゃいマスよ?」
「じゃあ次のカンカータをそのまま続けて」
「知りませンよ!!」

曲が終わり、ピアノの音が止んだ。のだめの−−−いや、俺のか?心臓の音が、妙に大きく聞こえる気がする。
「…今夜は、ここに泊まれ」

143 名前:けろりん[sage]:05/02/13 18:18:21 ID:aBK3LTSN
■3

のだめが、ふぉぉぉと奇声をつぶやく。
「そ、それって…センパイの部屋で…え、と、のだめはソファで寝るってことデスか?」
「いや」
「じゃあ、のだめがベッドに寝て、先輩はソファで…」
「いや」
「まさかのだめ、床デスか?!」
「床に寝たいのか!」
「じゃあ本当に、い、一緒のベッド…でいいんデスか?……のだめ、今日は下着が上下バラバラなんですけど…」
「…べつにいいんじゃない?……いやか?」
「…いえ。じゃあ、おジャマすることにしまス……シャ、シャワーを、借りマスね…」

俺の腕からようやく逃れて、のだめはふらふらしながらバスルームに消えていった。顔がゆでダコみてーに赤かったな…と吹き出しながら、ふと壁にかかった鏡をのぞいたら、そういう自分の顔も赤くなっている。
俺は何してんだ…
もう少し、待てるつもりだったんだけどな…。
のだめの使う水音を聞きながら−−−あいつがうちの風呂を使うなんて何度もあったのに−−−緊張していくのが分かる。
数分後、シャワーの音が止まり、のだめが赤い顔をして−−−お湯のせいなのか、俺のせいなのか−−−出てきた。
「お先にいただきました…ハフー」
だめだ、直視できない。濡れた髪が、上気した頬や首筋が、妙に色っぽく見えて。
「あ、じゃ、じゃあ、俺も……ちょっと待ってて」
のだめをろくに見ずに、俺もバスルームへ向かった。

144 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:05/02/13 18:20:53 ID:7gz8cng0
ううっ。感動をありがとう

145 名前:けろりん[sage]:05/02/13 18:21:32 ID:aBK3LTSN
■4

シャワーを浴びて出て来ると、居間にはのだめの姿がなかった。
まさか、帰ったのか?
「のだめ?」
声を出して名を呼んだら、ハーイ、と返事が返って来た。寝室から。
半開きになったドアから寝室をのぞくと−−−のだめは、俺のベッドの上に座っていた。
勝手に入っちゃいまシタ、先輩のベッドは2回目デスよ、とはにかんだように笑う。
「先輩がまたカズオになって、急に気が変わっても追い出されないように、待ち構えてみまシた」
「…いなくなったかと思った」
「どうして?のだめ、ココにいますヨ?」
のだめの隣に腰かけて、そっと手を握る。大きな手。ピアニストの手。
「ほんとうにデカいな、お前の手…手をつなぐとき、絶対取り損ねなさそうだ」
「このあいだオルセーに行ったときも成功しましたしネ」
「あ、あれは……寒かったから…」
あははー、なんで今さら照れるンですかー、突然手をつないでくれたから、のだめものすごーーーく嬉しかったんデスよ、しかもセンパイてば指をからめてくれてー、恋人つなぎデシタからー、とちょっと上目づかいにつぶやいたその唇が。
急に欲しくなって。
「……センパイ?」
「…名前で呼んで」
「……シンイチくん」
「恵」
軽く、頬に口づけする。額に。まぶたに。鼻先に。
そして、ふっくらとした唇に、自分の唇を落とした。まず上唇、そして下唇だけを、ついばむように軽く吸う。
柔らかさに気が遠くなりそうだ。


146 名前:けろりん[sage]:05/02/13 18:23:04 ID:aBK3LTSN
■5

舌先で、輪郭をなぞるように唇全体を味わい、ついに口中へ割って入る。一瞬触れた舌先を逃しはしない。
「ん……」
重なり合った唇の間から、熱い息がもれる。のだめの、普段は絶対に聞けない、艶めいた声。もっと、この声を聞きたくなって。
柔らかな首筋、そして胸元へ、手の甲をゆっくりとすべらしてみる。
「ふぉ……」
手の甲で触っただけでも、弾力と、中央の突起が堅くなっているのが分かる。そのままウエストから背中へ左手を回し、今度は右手で乳房を包み込むように触ってみた。熱い、柔らかい、のだめの乳房。
「おまえ、くびれ、ねー」
「くびれはなくても、は…胸は大きいから、イんです…あ」
「そうだな…でかいな」
「おっぱい星人…」
「…うるせー」
のだめは、両手を俺の首の後ろに回した。俺はその姿勢のまま、のだめをベッドの上に組み敷く。
「起き上がった体勢のママのほうが、胸が大きく見えて、作戦としてはいいんデスけど…」
「そんなの、どこで覚えたー!?」
さすがのだめ、だ。こんな時にも冗談みたいな言葉が出てくるなんて…
けど。もうそんな言葉を吐く余裕はやらない。
あとは、吐息だけだ。
「ん………っ!!」
俺は、乳房を触る手に、力をこめた。

***


147 名前:けろりん[sage]:05/02/13 18:27:20 ID:aBK3LTSN
■6

「センパイ…」
「……おはよ」
「なんでのだめ、床に寝てるンですカ……?」
「…俺もだから、別にいいだろ」
昨夜。
初めてだったのだめを「女」にするのは、思いのほか大変だった。
とにかく痛がったのだ。
あまりに辛そうだったので、もう今日はやめて、またにしようと俺は何度も提案した。途中で止めるのは俺としても辛かったが、それ以上にのだめが大変そうだったから。
けれど、のだめはそれを拒否した。絶対に、真一くんとひとつになりたい、と言い張って。
じゃあ、俺にしがみついて、痛かったらいくらでもその分、おれを叩いて、つねって、ひっかいて、何をしてもいいから、と言ったら、本当にアザが出来るくらい、力いっぱい叩いてくれた。
途中で、まるでレイプでもしている気分にもなり、少々萎えかけたのも事実だ。
だが、のだめが、俺のために…俺を好きだから、どんなに痛くても「ひとつになりたい」と望んでくれたんだから…。そう思うと、また奮い立ち、少しでものだめが良く思えて、苦痛が少なくなるよう、あれこれ努力した。
先端を入れてから、最後まで入るまでどのくらいかかったのか。そして、動かすまでにまたどのくらいかかったのか。とにかく俺は耐え、ゆっくりと、次の段階に進めて行くようにしたのだ。
その甲斐あって、だんだんのだめも余裕が出始め、最終的にはうまくいった−−−−のだが。


148 名前:けろりん[sage]:05/02/13 18:28:27 ID:aBK3LTSN
■7

「と…途中で落ちたってコトですか、ベッドから……?のだめ、ぜんぜん覚えてナイですヨ…?」
「あれじゃあ場所がどこかなんて分からないだろ…とにかく俺様から逃げて逃げて、アゴに蹴りをくらわせて、その反動で落ちたんだから…そのくせに「絶対に続ける!」って言い張って、俺までベッドから引きずり下ろしたんだぞ、お前が」
「ほえ〜……じゃあ、センパイとのだめが結ばれたのって…結局」
「床の上」
「ひえーん!のだめ、初めてが床の上なんデスか〜!?そんなの、格好悪くてイヤですー!」
「まあ、なんか玄人っぽくていいんじゃねえ?」
「玄人って何の玄人デスかー!」
俺はサイドテーブルから床に落ちていた(正確には、のだめが振り回した手で落とした)タバコに、アザだらけになった手を伸ばした。
こいつといると、飽きそうにない。
それに。
いつも発見があるな…。
「どうせなら、ピアノの上とかの方が話のタネに良かったのに…グス」
「話って、誰に話すつもりなんだ……。とりあえずちゃんとベッドの上で出来るようになれ」
「ハイ!じゃあさっそく!」
「え……?て、おい!!」
のだめは立ち上がって俺の手を引っ張り、ベッドの上に引きずり上げた…
まったく読めない女だ…。

<FIN>


149 名前:けろりん[sage]:05/02/13 18:31:11 ID:aBK3LTSN

以上です。
初SSだったので、未熟ですみませんー。
濡れ場の肝心なトコは、努力したんですが書けませんでした…
期待外れでしたでしょうか?(最後はお笑いになっちゃったし)
脳内補完していただければ幸いです。

ほかの職人の方々、楽しみにしてますよー!


150 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:05/02/13 19:01:53 ID:gv0gcN6O
ヴァイオリンさんGJ。
素晴らしかったです。
エロもストーリー性も素敵でした!

けろりんさんもGJ。
直接的なエロ描写は少ないのに、非常にエロかったです。
読み手があれこれ想像させられる、所長方式ですね…
その上、かなり笑わせてもらいました!
因みに、教会でのバッハのコンサート告知のエピソードは、
この夜の後ってことで考えてつじつま合わせたので問題なしですー。

お二人ともまたの投下をお待ちしておりますね!

151 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:05/02/13 19:12:57 ID:LRSCbfYK
>ケロリンサンGJ!原作に近い雰囲気が良かったです(´∀`)ぜひまたお願いします!

152 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:05/02/13 20:26:25 ID:cLlgsPgn
ヴァイオリンさん、けろりんさんGJです。
やっぱりのだめ×千秋のカップルは見ていて一番好きです。


今日はたくさん読めて素晴らしい日でした。

読み終わったら、何だか無性に甘えん坊千秋が見たくなったのですが…、
どなたか図々しいとは思いますが…
書いていただけないでしょうか?


153 名前:ヴァイオリン[sage]:05/02/14 01:26:14 ID:5GBK5tpz
な、なんか身にあまるたくさんの感想ありがとうございました!
なんとか、書き上げることが出来たのも、前スレでたくさんリクして頂いたのを
参考にしたおかげだと思っています。
こんなヘタレSSでよければ、今後もまた完成したら投下したいと思っていますので、
たくさんリクして頂けるとすごく参考になるし、ありがたいのでよろしくお願いします。

けろりんさん、すごく良かったです!
2人が初々しくて、すごくよかったです。
また、次回作も期待していますね!
他の職人さんの作品も期待して待ってます!

154 名前:842です[sage]:05/02/14 10:45:26 ID:Z+82VkCG
ようやく完成しました。ふうぅ。
おまたせしてしまってすみません。では、イキマス。

155 名前:842(未来形)21[sage]:05/02/14 10:48:03 ID:Z+82VkCG
「さて次は、P.N.『花言葉は清らかな愛』さんからのメッセージ」
カウンターに寄りかかるようにして頭を抱える千秋とのだめを無視して、筒井かをりはなおも
ノリノリである。

やあ、千秋君、恵ちゃん。君たちがこの番組に出るなんて驚いたけど、恵ちゃんの元気な姿を
見ることが出来て嬉しいよ。
それにしても千秋君。君がさんざん「変態」だの「地球外生物」だのと言っていた恵ちゃんと
結婚するなんて……。あの言葉は僕を気遣うものだったんじゃなくて、ライバルを蹴散らす
君の策だったというワケか。……人間不信に陥りそうだよ。
ところで、この間君の楽屋を訪ねた時のことなんだけど。ノックしても返事がないし、でも
中からは微かに泣き声のようなものが聞こえてきたからそっとドアを開けて覗いてみたんだ。
そしたら……、僕はこの世で一番見たくないものを見てしまったよ。
もう二度とこんなことは御免なんだ。千秋君、僕はああいった場面でどういう対応をすれば
いいのかな。教えてくれないか?

なぜか赤面するのだめの横で、うつむいたままの千秋は押し殺したような声で言葉を発した。
「正直すまなかった。でもお前までこんなものよこすなんて俺はショックだよ。そーいう時
 はな黒木! ドアを閉めて何事もなかったように立ち去ってくれ頼むから!!!」
「ということです。『花言葉は清らかな愛』さん、わかりましたか〜?」
教育おねえさんのようなにこやかな顔をカメラに向けた後、かをりはクルリと振り返り、
真剣な面持ちで千秋の肩を掴む。
「で、彼が見たものって何なのかおねーさんツッコンでもい〜い?」
「……次、いってください」


156 名前:842(未来形)22[sage]:05/02/14 10:49:55 ID:Z+82VkCG
ケチーと残念そうな顔を一瞬見せたあと、彼女は手元の紙に目を移した。
「えーと、『飲むチーズケーキ』さんからの質問です」

千秋君。僕の忠告に反しての君のヨーロッパでの活躍、はっきり言って面白くないんだけ
ど、まだまだヒヨッコの君が結婚だなんて、笑えるね。あははははははは。
まーせいぜいガンバッテね。君たちの結婚の失敗を祈る!
恵ちゃん。君とのコンチェルトはとても楽しかったよ。どうやら僕らは相性がいいみたい
だね。今の生活に嫌気が差したら、僕のところにおいで。遊んであげるから。
ところで、君の首筋になんだか赤くなってる部分があるんだけど、蚊にでも刺されたのか
な? ずいぶん大きな。今度その蚊をツブしに行ってあげるから、それまでにお願いして
おいたほうがいいんじゃない? 「あんまりわかりやすいトコロを刺さないで」って。

今度は逆に、なぜか赤面する千秋の横で、のだめがあわてて首の方に手をやり。
「そーなんデスヨもうものすごくおっきな蚊に刺されちゃってもーカユくてカユくて。
 ……蚊にはよく言い聞かせておきますカラ!!!」
「……若いっていいわね〜♪」
かをりの含み笑いで、またもや墓穴を掘ってしまったことを知るのだめであった。


157 名前:842(未来形)23[sage]:05/02/14 10:51:45 ID:Z+82VkCG
「さくさくいきまショー。次は、『マーラー大好き』さんからの質問ですよ」

千秋くん、のだめちゃん、お疲れサマ☆ なかなか楽しいトークだったわよ〜。さらなる
盛り上がりに期待して、私からのとっておきな質問、届けるわ♪
2年くらい前、千秋くんと競演したときのことなんだけど。その時のリハで、千秋くん遅
れてきたじゃない? 何かあったのかしら、てずっと気になってたんだけど……。そうい
えばあの時、前の休憩でフルートとコンバスのグラマーなおネエさんから質問受けてたっ
け。で、その後トイレのほうに……って、あっ!! もしかして大人の、いえオトコの
事情ってヤツかしら!? 
あのツアー長かったし、その時のだめちゃんアメリカだったもんね。そりゃあ、ねぇ?
大変ねぇ、千秋くん。うぷぷ。

清良! お前もかーっ、と千秋はカメラに向かって声を荒げる。
「アレはほんとに打ち合わせが長引いただけなんだよっっ!!!」
ほんとデスか〜、と疑いの眼差しを向けるのだめに一撃食らわせて、千秋は続けた。
「峰だってな、絶対お前がいないときにやってんだよ! タンスの2段目の奥見てみろ!」
そこは峰のマル秘☆ビデオコレクションの隠し場所である。
「千秋くん、せめて恵ちゃんをオカズにして――」
「次! 次いってください!!!」

158 名前:842(未来形)24[sage]:05/02/14 10:53:27 ID:Z+82VkCG
次々に読まれる質問やメッセージは、すべて二人がよく知る音楽関係者からのものであっ
た。もはやまともな内容ではないそれに真剣に回答する気力もなく、千秋とのだめはただ
黙々と目の前に空のカクテルグラスを積み上げていく。
「もー、もっとテンションあげて〜。次で最後なんだから〜」
最後、というかをりの言葉に二人はほっとしたように顔をあげた。しかし、最後に残され
た紙に書かれたペンネームが読み上げられると、表情が一気に曇っていく。
「それでは、最後のメッセージです。『一番星☆がライジング』さんから」

よう千秋。いい気味だったぜ。俺のかわいい沙良からファーストキスを奪った報いだ!
アレはいくら親友☆でも許せねぇ。ちったあ思い知ったか!?
まぁでもこれで痛み分けってことで許してやるゼ。俺は心の広い男だからよ。
しかし、お前らもうちょっと番組の趣旨を理解しろよ。『新婚さん』だぜ? なんつーか
こうもっと甘々な雰囲気をお茶の間に届けようっていうココロイキを見せてくれ!
R☆Sの盛り上がりもかかってるんだから、ガツンと一発頼むぜセンセー!!!

瞬間、千秋の中で何かがぷちんとキレた。
のだめの腕を取り立ち上がらせ、顎に手を掛けるとそのまま強引に唇を合わせた。
スタジオの人間全員が、目の前で展開する熱いキスシーンに固まったが、その一瞬の
緊張も筒井かをりの大爆笑によって解かれる。
「これで満足か峰―っっ!!!」という千秋の絶叫と、のだめの「アヘ〜」という
声をバックに、番組の終了を告げる音楽がテレビに流れ始めた。
「あははっ。面白くてアッツアツのお二人でしたね〜。私も音楽家へのイメージが変わっ
たわ。それでは皆さん、また来週〜」

こうして、二人の受難の一日は終わりを告げた。3月の公演は峰の野望どおり大盛況で、
ファンからの熱烈な要望により、記録的なロング・ランとなった。


159 名前:842です[sage]:05/02/14 10:56:00 ID:Z+82VkCG
以上です。
ふいー、やっと終わりました。みなさまのご期待に添えられたかどうか
不安ですが。書いてて面白かったです。
またぜひチャレンジしたいと思います。

160 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:05/02/14 10:59:40 ID:iWoam/SU
842さん、投下おつかれさまです。
そしてグッジョブです!!
さんざん笑わせていただきました。
次の作品も楽しみにしてます。
でも欲を言えばもうちょっとえろいのもよろしくお願いします。

161 名前:842です[sage]:05/02/14 11:20:52 ID:Z+82VkCG
160さん、コメントありがとうございます!
楽しんでいただけたようで、嬉しいです。

エロがほとんどない文章でしたので、どんな反応があるか
不安だったんですけど……。
次は、エロを書いてみようかな。

162 名前:二人のコンチェルト 1[]:05/02/14 11:56:59 ID:qaazpVSa
みなさんの力作に刺激されて書いてみました。
ちょっと固いというか・・「おやつ」代わりに
読んでもらえれば幸いです。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

日ごとに秋が深まるパリ。その一角を占めるサル・プレイエルホールには今日も多くの聴衆が詰め掛けていた。
お目当ては千秋真一指揮ウィルトール交響楽団のコンサートである。
日本でいう下手から姿をあらわした千秋に万来の拍手が送られる。チューニングの音が響いた後、
すべての聴衆が緊張感と高揚感の入り混じった空気に包まれた静寂を楽しむ。
そして、その張り詰めた会場の緊張感をタクトの一閃は破った。

「あぁ・・」
4プルトのオモテという指揮者が良く見える席にいるロランの目には相変わらず黒い羽の幻想が浮かぶ。
千秋の明確かつ力強いリズムの刻みがヴィオラ奏者ロランを虜にする。
千秋は日本人指揮者にありがちな「軽さ」とは無縁な指揮者である。
精密なアナリーゼと比類ないポリフォニー感覚でオーケストラから強靭で重厚な音楽を引き出す。
ウィルトール交響楽団との演奏は、幾度となく「千秋の音楽」をこれまでパリの聴衆に強く刻み続けてきた。
曲目、ブラームス交響曲第1番。
千秋にとって因縁の深い曲であるこの曲をウィルトールと演奏するのはこれが初めてである。
曲はまもなく第3楽章を終え第4楽章を迎えようとしている。4楽章で描かれる美しいヴィオラの対旋律はロランが愛してやまない音楽だ。
それを千秋の指揮でできるー
「あぁ・・」
恍惚を迎えたロランには彼に向けられた指揮台とファゴット席からの冷たい視線を感じることは
到底不可能だった。


163 名前:二人のコンチェルト 2[sage]:05/02/14 12:20:02 ID:qaazpVSa
「だからどういう解釈なんだ〜!」
「ぎゃぼ―」
いよいよ明日―
のだめと千秋のコンチェルト。
曲は「ラフマニノフピアノ協奏曲第2番」。
千秋の頭に浮かぶ言葉は「因縁の対決」だ。
のだめはコンセルヴァトワール在籍時にチョピン国際ピアノコンクールで1位獲得。
「ピアノという枠を越えた奇跡の演奏」と絶賛された、のだめは世界的と冠されるピアニストの一人となった。そしてのだめは千秋と同じ事務所−千秋の猛烈な反対を押し切られーに所属している。
今回のコンサートもミルヒーの陰謀だと千秋は確信している。
それにしても、である。相変わらずなその演奏は「大胆かつ奔放」と言えば聞こえはいいものの、千秋の耳には相変わらず「楽譜を読まない、曲を作る」のだめそのままだった。
「なんでそこのテンポを落とすんだ!テンポ指示は110だろ!」
「この方がキレイなんデス!」
のだめがハナの穴を膨らまし、抗う。
もちろん、いまやのだめは「プロ」ピアニストである。その演奏は芸術家としての表現そのものであり「のだめの音楽」がなければいけないことは当然だ。しかしー
「ここはソロじゃない!オケとのバランスを考えて弾かなければならないことくら」
「分かってマス!」
ラフマのピアコンはピアニストだけではなくオケにとっても「難曲」である。ピアノが表現する音の揺らぎ。それを鮮明に描けるよう構築しなければならない。
協奏曲一般に求められるソリストとオケの「呼吸」をしっかり合わせ、二つが溶け合った音を出すという技術として最高級のものが求められるのだ。
だが、のだめは大学時代に連弾したのだめそのままだ。
オレは合わせられるのか、こいつに。
不安が千秋を包む。


164 名前:二人のコンチェルト 3[sage]:05/02/14 12:30:22 ID:qaazpVSa
「ふー、ちょっと休憩しよう」
「ハイ」
−ふぅ。疲れた。くたびれ果てて千秋は椅子に腰を落とした。疲れの表情を浮かべる千秋にのだめは心配そうに寄り添う。
「なにか食べましょうヨ、あっ、実家から食べ物送られてきたんですヨ!」
「海苔だろ?」
「ひじきデス」
ひぃ―――――!
千秋の頭に悪夢がよぎる。のだめは何回教えても台所のシンクから山盛りのひじきを溢れ返らすのだ。
「い、いや、ひじきはやめとこう」
「ナンデですか〜?おにぎりもつくりますヨ?」
「あっいや、医者から止められているんだ、ひじき・・・」
「えっ、ソなんですか?」
「あと、ひじきは音楽性に影響があるとあの、えーあのベートーベンも言ってるし・・」
「ベトベンがですかぁ・・・」
「外行って食おう。マキシム行きたいって言ってただろ」目をそらしつつ千秋が逃げる。
「ムキャ〜、のだめ、肉がいいデス」
ふぅ〜よかった・・・・
安堵して煙草に手を伸ばそうとした千秋の膝にのだめがちょこんと腰を落とした。
「なんだ〜?」
千秋に背を向けて天井の向こうの空を見上げるようにのだめが言った。
「のだめ、この曲はのだめの音でつくりマス。身体にまだ残っている先輩の音は追い出しマス。
のだめのラフマニノフ、聞いてくだサイ」
―――大きい。のだめの背中がとてつもなく大きくみえる。
そうだよな、コイツはもう「プロ」なんだよな・・・・・
対等の「音楽家」としてののだめと、「女」としてののだめの両方が
前にいる。ふぅー。まだまだオレは・・・・
のだめとその想いを包み込むように千秋の腕がふわりとのだめを抱いた。
「・・・・うん」
のだめの決意に千秋は一言だけつぶやく。
背中に押し当てられた千秋の顔の温もりにのだめは安心し、そしてその決意を確実なものにした。


165 名前:二人のコンチェルト 4[sage]:05/02/14 14:43:05 ID:qaazpVSa
ピアノ協奏曲第2番。
精神を病んでいたラフマニノフは、1901年、高名な医師の「催眠療法」の結果、病を克服し、
この2番を書き上げた。

のだめが自分の飛行機恐怖症を解消してくれた経緯を話してくれたのは結婚後しばらくしてからだった。そのときの懐中時計は千秋の大切な「お守り」である。
演奏旅行にのだめが一緒にいないときはこの時計を握り締めて不快な空の時間をじっとやり過ごす。のだめはのだめで演奏会前の緊張感を自分が送ったネックレス
とともにやり過ごすらしい。
千秋も演奏直前必ずある気持ちに襲われる。それは簡単なものだ。「失敗したらどうしよう」。
それはどんな名指揮者、名演奏家も襲われる本能的な恐怖感である。どんなに自信があったとしても演奏会の度に襲う恐怖感。
高名な演奏家が舞台袖でその恐怖感で暴れた話しは有名だ。
が、二人はそれぞれを「お守り」にして演奏に望む。
ラフマニノフが病を乗り越えて世に送ったこの曲は、それぞれの「傷」を乗り越えて
ここまできた二人に何かしら共感を覚えさせた。


166 名前:二人のコンチェルト 5[sage]:05/02/14 14:45:45 ID:qaazpVSa
のだめの楽屋にノックの音が響いた。
「あっ、ハ、ハイ どうぞ」
「調子はどうだ?」
「えっ、ハイ、ばっちりですヨ」
――目をそらしやがった。
「お前、昨日寝てないだろ」
「えっ?ネ、寝ましたヨ、ぐっすり」
ゆうべ、ピアノの音が途切れることはなかった。そして千秋もほとんど寝れななかった。
それはピアノの音のためではなく、のだめの超人的な集中力に圧倒されたためだった。
「オレは寝てないんだよ」
「ス、すみません・・・」
「っていうか、お前その衣装・・・・」
のだめが初めて出たコンクールの本選用の衣装。・・スカーレット・オハラ・・・
「かをりさんが贈ってくれたんデス。あとハリセン先生から手紙が・・・」
「・・・・手紙?」
千秋は折られた便箋を開いた。
「オレや。結婚式以来やけど元気にやっとるか?千秋とのコンチェルト見にいけるはずやったんやが、
今面倒見てる学生のコンクールがあってどうしても行けへん。「千秋真一と野田恵を育てた教師」
してオレも今やちょっとした顔や。もっともオマエや千秋を超える生徒はまだおらへんけど。かをりも合宿の関係で行けへん。
日本公演の日程もあるようやから、待っとるで。しかし、意外な男や千秋はホンマに。あのカニ以来」
そこまで読んで千秋は手紙をぐしゃりと握り締めた。


167 名前:2人のコンチェルト 6[sage]:05/02/14 14:47:27 ID:qaazpVSa
「・・いつ、オレがお前に育てられた・・・」
怒りのオーラに圧倒されたのだめがあわてて手紙を奪い返した。
「せ、先輩、のだめ大丈夫デスヨ。本当に。この衣装を着るとあの時ののだめになる気がするんですヨ」
千秋の中で時間が巻き戻る。
まるでオーケストラのようなモーツァルト。
渾身のシューマン。
そして会場を歓喜の坩堝にさせたストラヴィンスキー。
 のだめの才能が初めて人々を魅了したあの時間―
「・・・本当に大丈夫なんだな?」
「・・・・・・ハイ。」
千秋はのだめの前に腰を落とした。そして、その大きな手を両方とも握り締めた。
そして少し上気した表情を見せるのだめの頬をそっと撫でた。
「楽しい音楽の時間、だぞ。なっ?」
のだめを見上げて精一杯の笑顔を見せた。
「ソですね」のだめが片方の手を握り返す。
そのときドアの外に無粋な声が上がった。
「時間ですー!お願いしまーす!」
ステージマネージャーの大きな声が響いた。




168 名前:二人のコンチェルト 7[sage]:05/02/14 16:12:15 ID:qaazpVSa
―――空気が違う。
のだめが感じた空気。それはコンサートホールも同じである。
クラシック音楽はこの空気の中で生まれ、発達を遂げた。
千秋は思う。「クラシック音楽とはヨーロッパの音楽」なのだと。
そしてその空気で音楽を出来る自分。もしのだめがいなかったら。
万来の歓声が千秋を迎える中、千秋は指揮台へ向かう。
しかし、その歓声の中にいくつかの日本語が混ざっているのをさすがの千秋の耳も聞き分けることは出来なかった。

「よく見えねぇな。やっぱもう少しいい席とりゃよかったんだよ」
「取れなかったのよ!見たでしょ?当日席のあの行列。
今日だって師匠に頼んでようやく都合つけてもらったんだから」
峰と清良の姿は2階席の後側だった。
「くそ〜、さっかく沙良を預けて来てやったっつーのによ・・」
「アンタ、携帯切ったの?待受見てたでしょ、さっき」
「当り前だろ・・ほら・・あっ」
そこにはこれ以上なく相好を崩して沙良に頬摺りしている峰の写真が画面一杯に写っていた。
「ふぅ〜」
あわてて電源を切る峰にため息をついて清良は頬杖しながら舞台に目を戻した。
「二人の音楽が・・・聞けるね」
峰が席に背中を預けてながら小さく呟いた。
「・・・あぁ」

「はぁ・・千秋さま・・」
少し離れた席に真澄は座っていた。
うっとりする真澄は後席からのあからさまな迷惑顔を見ることは出来なかった。
後席からは真澄の髪しか見えないのだ・・・


169 名前:二人のコンチェルト 8[sage]:05/02/14 16:14:51 ID:qaazpVSa
「シアワセです・・・今日は・・・」
理事長を挟んだ席にシュトレーゼマンとカイ・ドゥーンが座る。
「どうしてこんな席順なんだ・・」
カイが理事長越しにミルヒーを睨みつける。
「まぁいいじゃない。もう少しで始まるわよ」
「ワタシの弟子と、可愛いノダメちゃんのコンチェルトがうまく行かない訳がアリマセン。
そんなことよりドウです?今日終わったら食事でも・・」
「フン!」カイが不愉快極まり無い顔で舞台へ顔を向ける。・・それにしても。
二人のコンチェルト。気になる。そして胸が高鳴る・・

「先生、いよいよですね」
コンセルヴァトワールのピアノ教師が話し掛ける。のだめの初見の教師である。
「そうですね・・・」
「楽しみですね。ベーベちゃん」
「もうベーベではありませんよ。リッパなmademoiselle(女性)です」
「そうでしたね・・・」
苦笑する教師の傍らでオクレールは呟いた。
「Bonne soiree(良い夜を)、ベーベちゃん」


170 名前:二人のコンチェルト 9[sage]:05/02/14 16:16:06 ID:qaazpVSa
のだめが袖から姿をあらわした。もっさもっさとスカートが揺れる。
「オウ〜」
観客から歓声が上がった。その歓声に千秋が顔を赤らめる。やっぱその服――!
がたーん。
椅子が傾く。ぶつかりやがった・・さすがに観客席からは笑いが起こった。
千秋の表情にげんなりしたものが浮かぶ。それでも「世界の野田恵」か・・・
が、それは満場の観客にとって嬉しいオプションでしかなかった。すぐに床を揺るがすような拍手が会場を包む。
のだめは席についた。椅子を調節するのだめをちらりと千秋は覗いた。
あの目―
コンクールの時に見せた目。
ピアノ、そして音楽への揺ぎない意志がその目にこもる。
のだめに降りてきている音楽の神の業・・だろうか。
千秋はのだめがプロデビューした後、そのコンサートに行ったことがほとんどない。日程が合わないこともあるが、
「身内」の演奏は大抵の演奏家にとって面映いものだ。特に「千秋夫妻」となってからは益々、その足を遠ざけた。
拍手が収まり、観客席が静寂に包まれる。場内に響くチューニングの音。
千秋がのだめに目で伝える。
―――いつでもどうぞ。
のだめの瞼が一瞬閉じられた。
そして。
「あっ」
峰が、真澄が同時に息を呑んだ。
「あの口・・・」
のだめのひょっとこ口が遠くからも見えた。
そして次の瞬間、のだめの手が最初の一音へと向けて鍵盤へ降りた。


171 名前:二人のコンチェルト 10[sage]:05/02/14 17:57:43 ID:qaazpVSa
高名なピアニスト、ホロヴィッツは言った。
「東洋人と女にはピアノは弾けない」

だが「東洋人で女」であるのだめの一音は会場を一瞬にして凍らせた
最初の8小節のピアノソロ。10度に渡る和音。ピアニストによっては一度に弾けず
アルペジオ(分散和音)にしてしまう。
だが、のだめの大きな手はその和音をやすやすと操る。そして。
たしかにピアニッシモの一音。だが、すべての聴衆の胸に岩のようなフォルテッシモ
となって突き刺さってゆく。
千秋の背筋が震えた。
すげぇ―――
素直に、とても素直に千秋は思った。
そしてタクトは降りた。
ここからサル・プレイエルホールの35分間はその後「神が降りた35分間」として歴史に
刻まれることとなるのを二人、そしてすべての聴衆はまだ知らなかった。



172 名前:二人のコンチェルト 11[sage]:05/02/14 17:59:14 ID:qaazpVSa

第2楽章の甘美な音楽。のだめのピアノの音。ひたすら甘い。
それは行っては行けない世界からの危険な誘惑のようだ。千秋は最初にのだめのピアノを聞いて以来、
この誘惑にひたすらのめり込んでいたのだ。恣意的なのだめの解釈はそれまでだれもが聞いたことがないラフマニノフとなり、
さらにのだめの「音楽」となって聴衆を呆然とさせる。

「・・・・・私は自分の陰鬱な面が晴れつつあるのを感じる。
人を癒す音楽。私はそれを目指してきた」(ラフマニノフの書簡より)

 ウィルトール響の強靭なアンサンブルがのだめのピアノの前に揺るがず、付き添う。
鍵盤から漂う音がオーケストラの音と寸分狂わず溶け合う。
ロランの目にはすでに黒い羽根の幻想が浮かぶことはなかった。
 この時間・・・この時間・・・が永遠であればいいのに。


173 名前:二人のコンチェルト 12[sage]:05/02/14 18:01:29 ID:qaazpVSa

         「音楽の役割で人を癒すことのほかに何があろうか。
          知ってのとおり初めて発表された歌曲の題名を
         “悲しみの収穫”とつけた。今なら多分みんなで
          収穫に集まって悲しみを癒すことができるであろう。」(同上)

 いよいよ第3楽章はクライマックスに向けて高まりを続けている。
千秋は初めての経験をした。音楽が見える。音が色彩を帯びる。白のショパン、ピンクのモーツァルト。そうか、あいつはこんな世界で音を紡ぐのか。うらやましいな。
 タクトの一振り一振りが楽しい。音楽が築き上げられてゆく一瞬一瞬が楽しい。

     「“心の喜び”。ききての頭脳を経由するのではなく
      直接心に響く音楽をめざす。リラックスして自然に
      ひきこまれ幸せな気分になれるような音楽を・・・・。
      “私のことを知りたいなら私の音楽をききなさい”」
     (ラフマニノフが孫に語った言葉)

 すでにオーケストラの誰もが解き放たれていた。楽譜という呪縛、リズムという呪縛、アンサンブルという呪縛。すでに意志を持ってしまった今という永遠の時。
 千秋とのだめの奏でる音楽はウィルトールを率いて違う世界にその場の全員を運んでいる。
「神サマが呼んでるから」
そうだな。オレだけでなく、あいつも一緒に呼んでくれた神に感謝しよう。
千秋のタクトが最後に一振りの打点を刻み、その時間は終わりを告げた。




174 名前:二人のコンチェルト[sage]:05/02/14 18:02:58 ID:qaazpVSa
とりあえずここまで力つきました・・・
あとはまた、名職人の出番を待ちましょう。
スレ汚し失礼しました。

175 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:05/02/14 18:41:17 ID:RzEceNgW
>>162サン
凄いです。何か、綺麗な…透き通ったSSですね。
文章で音楽の感動を伝えることができるなんて、文才ある方ですね。
次作をお待ちしています。

ヴァイオリンサン、エロ最高でした!ウマー
けろりんサン、「…名前で呼んで」最高にモヘー
842サン、エロ無しでも全然OK、「待ってました!」とばかり読ませていただきました。
勿論エロにチャレンジ〜でしたらそれもアリ!是非とも次回作を。

ここのネ申サマ達は、本当に才能ある方ばかりで、
エロ有り無しかかわらず、思うがまま書いてもらったほうが
きっと素晴らしいSSになると思います。

176 名前:けろりん[sage]:05/02/14 22:48:28 ID:Z4DN9zVQ
162さんは音楽の専門知識をお持ちの方なのでしょうか?
なんだかいろいろな事を知ることができたような。
ちょっとお得なSSで楽しめました。

つたないSSもけっこう好評だったようでいただき嬉しい限りです。
ヴァイオリンさんからまでお言葉いただきまして。
また思い付いたら投下しますね。ひとまず名無しに戻りまーす。

177 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:05/02/15 00:37:36 ID:ybfUq5IQ
すごい、すごいよ!数日遠ざかっていたら、神様が連続で降臨中?
それもハイクオリティな作品ばかり!はふーシアワセですー
神様たち、ありがとうございました。

178 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:05/02/15 02:11:46 ID:BQBeeyBZ
どの作品も堪能させていただきました!

>ヴァイオリンさん
上級編が気になります〜。楽しみに待ってまーす。

179 名前:842です[sage]:05/02/15 12:14:25 ID:5b3AKIJu
もうすぐ新作が完成するので、投下してもいいでしょうか?
今度のテーマは、
「ヘタレ千秋の、甘えん坊ばんざい!」です(笑)
かなりシリアスですが、エロもがんばってみましたので。

180 名前:「二人のコンチェルト」の作者です。[sage]:05/02/15 12:28:58 ID:npdW6awh
スレの趣旨と合っているか心配なんですが、
最後まで書いてみてもよろしいでしょうか?
濃厚シーンは他の神々の及ぶところではないので・・orz

一応、夫婦にしてあるのでそういうことはしている
という前提です(w

181 名前:180 [sage]:05/02/15 12:31:11 ID:npdW6awh
訂正
神々の及ぶところ→神々に及ぶところ・・・・・orz

182 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:05/02/15 12:32:57 ID:/qralOA4
>842サマ
ワクワクしながら大人しくお待ちしております。

183 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:05/02/15 12:49:20 ID:/qralOA4
>>180サマ
モンモンしながら大人しく…ってこのスレ神様達と凡人の私一人カイ…orz
…夜になればきっと神様達が投下した作品に皆かぶりつくはず。是非おながいします。

184 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:05/02/15 12:58:21 ID:3Jh29ZHs
842さん、180さん、
182さんに続いて私も待ってます。
楽しみです。

185 名前:842[sage]:05/02/15 13:09:55 ID:5b3AKIJu
お前が、お前自身の光り輝く音楽へ向かって羽ばたいていく。それは恐らく、お前以上に
俺が望んでいたことだったはずなのに。
なぜ、こんなにも気持ちが沈んでいくのだろう。


君が手を離さないでと言ってくれるだけで


地平線に沈みかけた太陽の光を反射して、立ち込めた夕霧がパリの街を暖かに彩る。その
一角にたたずむ古びた、しかし趣のあるアンソニーホールの前は、多くの人間でにぎわっ
ていた。今日、この場所でデビューを飾る一人のピアニストの演奏を聴きにきた人々であ
ろう。まったくの無名だった彼女が音楽界にその名を轟かせたのは、つい数ヶ月前のこと
であった。
某有名コンクールに颯爽と現れた日本人ピアニスト、野田 恵 はその会場に居合わせた
人間の心とともに、優勝の栄誉をさらっていった。音楽界は瞬く間に彼女の話題でもちき
りになった。
――日本人天才ピアニスト、堂々デビュー――
そんな彼女の演奏を是非聴いてみたいと、芸術の都に住む人々はこぞってこのホールに足
を向けたのである。


186 名前:842−2[sage]:05/02/15 13:12:27 ID:5b3AKIJu
開場の時間になり、人の群れは建物の中に流れ込んでいった。その中に、今日の演奏を誰
よりも待ち望んでいた男がいた。千秋真一である。彼は自身の演奏旅行を終えて、ついさ
っきパリに戻ってきたところであった。
「いよいよデスね。のだめちゃんのデビュー公演」
彼と共にこの会場に足を運んだシュトレーゼマンが話しかけた。
「……ええ」
心配のためか、自分の初公演の時以上に表情が硬く、青白い。
そんな千秋に彼の師匠は微笑ってポンッと肩を叩く。
「ダイジョウブですヨ。のだめちゃんなら、私タチをあっと驚かせる、素敵な演奏をして
 くれマス」
さあ、楽しい音楽の時間デス。
開演のブザーがホールに鳴り響き、彼らは指定された席へとその歩みを進めた。

圧倒的だった。コロコロと楽しそうに踊る音色。かと思うとまるで心臓に突き刺さるかの
ような重厚な和音。そのピアノの紡ぎだす音に人々の心は弾み、揺さぶられ、そして魅了
される。その多彩な音色と浮かび上がるイマジネーションに観客は陶酔しきっていた。
千秋真一もその例外ではなかった。しかし……。
すべての演目が終了し、客席からアンコールの嵐が沸き起こる中、千秋は一人静かにホー
ルを後にする。人々がのだめに送る歓声が、いつまでも頭の中に響いていた。


187 名前:842−3[sage]:05/02/15 13:14:26 ID:5b3AKIJu
やがて、すばらしい演奏に興奮しきった観客が今日の主役をたたえながら、出入り口の扉
よりその音色の余韻に浸るようにゆったりとした足取りで出てきた。その流れに沿ってシ
ュトレーゼマンも出口に向かう。キョロキョロとあたりをうかがうと、ロビーに設置され
た喫煙所で煙を燻らす千秋が目に入った。
「一人でさっさと出て行くなんて、薄情な男デスネ」
声を掛け、自分もタバコに火をつける。
「アンコールの演奏も、すばらしかったですヨ」
のだめちゃん成長したネ、と賛辞を述べると、千秋は「そうですね」と一言返した。その
顔色はこの場に似つかわしくない程、暗い。楽屋には行かないの? というシュトレーゼマンの
言葉には答えず、千秋はそれじゃ、と背を向けた。
「そんなことじゃ、のだめちゃんと一緒にはいられないネ」
背中から掛けられた、すべてお見通しというような彼の言葉に、千秋の足取りは一段と重
くなった。
――アイツの才能を俺が見出し、俺の音楽でアイツをここまで引っ張り上げた。
  いままでずっとそう思っていた俺は、ただの自惚れ屋だな。アイツは自分で
  自分の音楽を見つけ、そして自分の足であの舞台に立った。俺とアイツの音は、
  こんなにも違う。それは当たり前のことなのに。
どうすることもできないモヤモヤを抱え、千秋は一人帰路についた。

188 名前:842−4[sage]:05/02/15 13:15:44 ID:5b3AKIJu
シュトレーゼマンが楽屋の扉をノックすると、中から「はーい、どうぞ」と明るい声が聞
こえてきた。ドアを開けると、そこには初公演を無事成功させたという安堵と自信に満ち
溢れた笑顔があった。
「ミルヒー、来てくれたんデスね! 嬉しいデス〜」
どでしたか、と聞きながらも、のだめの目は傍らにいるはずの男を探す。
「チアキならもう、家に帰りましたヨ」
「えっ……」
シュトレーゼマンから花束を受け取りつつも、彼女は落胆の色を隠せない。しかし頭を軽
く振って顔を上げるとそですかー、疲れてるんですかね、と微笑った。
「ま、今日の感想はアパトに戻ってから聞けばいいしー。ミルヒーは? どう思いました
 カ? 今日ののだめの演奏は」
「とってもよかったデスヨ? のだめちゃん、がんばりマシタネ♪」
エヘヘー、さっきオクレールせんせにも褒められマシタ、と笑うのだめの頬に軽い祝福の
キスを送り、シュトレーゼマンはつぶやく。
「……もしかしたら、チアキよりもキミの方が大人なのかもネ」
それってどーいう意味デスカ? と首をかしげる彼女に、秘密の話、とシュトレーゼマン
はウィンクして答えた。


189 名前:842−5[sage]:05/02/15 13:16:54 ID:5b3AKIJu
初公演を祝うパーティも終わり、のだめは酒でほのかに赤く染まった頬を両手で包み込み
ながらタクシーに乗り込んだ。行き先を告げ、シートに深く身を預ける。
――まだ、ドキドキしてる……。
初めての公演で自分らしい演奏が出来たこと、そしてそれにより沸き起こった観客の暖か
な拍手と声援。彼女の心には先程の興奮が再びリアルに蘇ってきた。
――先輩は、どう思ったカナ? のだめ、がんばったんデスヨ。
それにしても、と彼女は思う。どうして先輩は先に帰っちゃったんだろう?
一番に、よかったよって言って欲しかったのに。そうつぶやくのだめには、もちろん今の
千秋の心情を想像することができるはずもなかった。

アパートの吹き抜けに軽やかなステップを響かせながら、のだめは階段を駆け上がる。初
公演の成功を二人で祝いたいと思う気持ちが、彼女の心を舞い上がらせた。
だから、彼女が千秋の部屋を訪れた時、その暗闇に驚いたのも無理はない。
「あれ? 先輩、もう寝ちゃったんデスか〜?」
そっと明かりをつけると、リビングのソファーにその身を沈ませた千秋がいた。彼の表情
はのだめの位置からは窺えない。
「びっくりした〜! 起きてるじゃないデスか」
明かりもつけないで、どうかしましタカ? と彼女は心配そうに千秋の傍へ近づく。返事
がないので気分でも悪いのかと彼の額に手を伸ばす。
その瞬間、ものすごい力で腕を掴まれた。ビクッとのだめの身体が固まる。顔を上げた千
秋を見ると、その表情は今までに見たことのないものだった。
「ど、どしたんで――」
混乱するのだめをソファーに押し倒し、千秋は強引にその唇を塞ぐ。その手はすでに彼女
の太ももあたりを弄り、ワンピースのすそをたくし上げた。


190 名前:842−6[sage]:05/02/15 13:18:07 ID:5b3AKIJu
突然の千秋の行為に、のだめは一瞬パニックになる。千秋の執拗なキスによって言葉を発
することも出来ずにいたが、やがて息苦しさから渾身の力を込めて、彼の身体を押し返した。
なおも圧し掛かろうとする彼を、肩で息をしながら制す。
「な、なに……するんですか、こんな……こんなのヤです……」
覆いかぶさるように両手をついている千秋に、見上げるような形で瞳を向ける。その目に
は涙が溢れていた。
「今日は、のだめのデビューコンサートで。先輩も一緒に、喜んで……くれるかと」
言葉尻は嗚咽にかき消され、もはや聞き取れない程小さくなっていく。
「……なのに、こんな……ひど…ですヨ」
その時、「ごめん」という言葉とともに、のだめを拘束する力が弱まった。涙を拭った
のだめが訝しげに窺うと、そこには今にも泣き出しそうな子供のような千秋の顔があった。
そのままの状態で、時計の針は静かに時を刻んでいく。やがて、のだめがその手を恐る恐
る千秋の頬に伸ばすと、一回り大きな手に優しく包み込まれた。暖かなその温もりにほっ
としながらも、未だ尋常ではない彼の様子にのだめの心は恐れにも似た感情に支配されている。
戒めは解けたはずなのに、身体が自由に動かせない。
どうしてよいかわからずそのままの体勢でじっとしていたのだめの顔に、ぽつりと生暖か
い雫が落ちた。
「……先輩、泣いて……!?」
握っていた手に一瞬キュッと力を込めた後、ソファーの上に流れた栗色の髪をそっと撫でて。
千秋はもう一度「ごめんな」とつぶやくように言った。


191 名前:842−7[sage]:05/02/15 13:19:25 ID:5b3AKIJu
そのまま立ち上がろうとする千秋の腕を、のだめはがっしりと掴んで離そうとはしなかった。
こんな悲しそうな顔をする千秋を見るのは初めてだったから。逃がしちゃダメだ、と彼女
の本能が警告する。
「何か、あったんですか?」
優しい声色の問いかけにも、千秋はただ首を振り。ごめんと同じ言葉を繰り返す。
「謝ってもらいたいんじゃナイんです。ただ、話してほしいだけ……」
ツラそうな先輩の顔見てるのは、のだめもツライから。そう言って微笑う彼女に、千秋は
少しずつ自分の胸の内を明かした。

いつも、いつも傍にいて。まるでそうすることが当たり前のように、傍にいて。同じもの
を見て、感じて、いつまでも手を繋いで、一緒に歩いて行くんだと思ってた。俺がお前の
手を引いて、同じ場所にお前を導きながらたどり着くんだって。傲慢、だよな。お前は
いつだって、自分の足でがんばって歩いてきたのに。
いつからだったんだろう、そんな考えが不安に取って代わったのは。俺は、お前が自分の
音楽を確立していく中で、どんどん不安になっていった。もしかしたら、俺の存在は、お前
の音楽の邪魔をしているだけなんじゃないかって気がして。
それが、今日の公演で現実となって俺の前に現れたような気がした。すごかったよ。鳥肌が
立った。そして、……ああ、まるで違う、と思った。二人の音楽性の違いを改めて思い知った。
俺は無意識にしても、まだお前の手を引っ張っている気になってる自分に吐き気がしたよ。
最低だな、と吐き捨てるように千秋は言った。


192 名前:842−8[sage]:05/02/15 13:22:33 ID:5b3AKIJu
うめくような声で、なおも千秋は続ける。

俺も、お前も、違う一人の人間で。そんなこと、当たり前のことのはずなのに。お前が、
俺の知らない場所に向かって羽ばたいていくのが、どうしようもなく、怖くて。喜ぶべき
ことのはずなのに、どうしようもなく、怖くなって。

ふいに千秋のバランスが崩れ、頬の下に柔らかな感触が広がった。彼の首には、しっかり
とのだめの腕が巻きついている。千秋を抱きしめながら、のだめは笑い声を上げた。
突然に起こった、この場の雰囲気にそぐわない笑い声に、千秋はムッとする。
「……お前、ここは笑うトコじゃないだろ?」
だってー、となおも笑い続けるのだめは、すぐ上にある顔にいたずらっぽい目を向けた。
「昔ののだめとおんなじなんだモン。おかしくって〜」
わけがわからないという表情の千秋に、のだめは優しく語り掛ける。かつて日本にいた時
の、自分が感じていた不安と想いを。


193 名前:842−9[sage]:05/02/15 13:24:06 ID:5b3AKIJu
先輩と過ごした大学生活は、すごく、すごく楽しくって。でも、いつか先輩は遠くに行って
しまうんじゃないかって、いつも、いつも不安でした。だから、先輩が飛行機恐怖症だと
知ったとき、嬉しかったんです。喜ぶことじゃないはずなのに、これでずっと一緒にいら
れるんだって。先輩の音楽が大好きなのに、おかしいですよね。
でも……。R☆Sオケの初公演を聴きに行った時、わかっちゃったんです。ああ、この人は
神さまに呼ばれてるんだって。だから、行かなくちゃいけないんだって。
頭ではわかってても、先輩がどこか遠くに行っちゃうのは、すごく怖かった。のだめが
がんばっても、追いつけないところに行っちゃうんじゃないかって、怖かったんです。

だから、おんなじ。フフフと笑うのだめに、千秋は胸の詰まるような思いでつぶやく。
「……初めて、聞いた」
そりゃーそデスヨ初めて話すんですカラ〜、とのだめは笑顔で返す。
「それでも、こうして今一緒にいるんです。たとえお互いの音楽が違う方向へ向かって
 いるのだとしても、それを結びつけることが出来ないはずアリマセン。そこから新しい
 音楽を一緒に作っていけるんデス」
なんてったって、先輩とのだめのゴールデンコンビなんデスから〜と朗らかに笑う彼女を
千秋は呆然と見つめることしか出来ない。そんな彼の手を取って、のだめは続ける。
「『僕たちは音楽で繋がっている』デショ? それに〜のだめはこの手を離すつもりは
 さらさらないデスヨ」
参った。この女には、きっと、一生敵わない。
「凄いな、お前って」
そう言って、優しく口付けた。


194 名前:842−10[sage]:05/02/15 13:25:17 ID:5b3AKIJu
先程とは違って、その手は慈しむようにゆっくりとのだめの肌の上を動く。彼女はその
すべてを受け入れ、時折切なげな声を漏らした。その吐息ごと絡め取るように、千秋の
舌は彼女の口内を支配していく。右手が丸みを帯びた滑らかな胸にたどり着くと、のだめ
の身体がビクリと反応した。それを合図に、唇を解放し、首筋に印を刻みながら、その
先端を舌で転がす。短く高い叫びが耳元で上げられ、頭を抱える腕に、僅かな力が加わる。
しっとりと汗ばんだ太ももを撫で上げ、茂みに隠された部分に指を潜り込ませると、そこ
はもう濡れていた。
ツルリと指を滑らせると、一際高い声を上げ、のだめの身体は震えた。額に掛かる髪を梳
き上げて、千秋は耳元で囁く。
「俺も、お前の手を離す気なんて、さらさらないよ」
外気に晒された額に一つキスを落とすと、千秋は一気に彼女の中に入っていった。
後から後から沸き起こる快楽に翻弄されまいと、のだめはシーツを握り締めるが、彼から
伝わってくる激しいリズムに、もう、何も考えることができない。ただ、心の中にある
彼への愛おしさを千秋が感じてくれればと潤んだ目で見つめるだけで精一杯であった。
そんな彼女にもう一度深く口付けて、千秋は自身を解放した。

行為を終えた後も、千秋の腕はのだめの身体に絡みついたままで。ちょっと苦しいデスと
言う彼女の言葉にもますますきつく抱きしめる。
のだめは苦笑しながら言った。
「今日の先輩は、なんだか子供みたいデス」
「……うん」
我ながら呆れてる、と言いながらも結局両腕の戒めが解けることはなく。
二人寄り添ったまま、朝まで幸せな眠りについた。


195 名前:842です[sage]:05/02/15 13:28:05 ID:5b3AKIJu
以上です。
本誌のモンモン千秋から今回の話を思いついたわけなんですが。
いやー、ヘタレですね千秋。

いかがでしたでしょうか?
エロは、私にはこれが限界です。
それでは、これにて失礼いたします。

196 名前:名無しさん@ピンキー[sage]:05/02/15 15:01:45 ID:EdyMHK+R
>842サマ、GJです!ほんとヘタレ…というより、一人どん底千秋ですねw 話の作り方がうまいですねぇ。
思いきり笑える話も、心情豊かなシリアス話もとても良いです。
また何かネタが思いついたら、ぜひ書いてこちらへ投下ねがいます。


197 名前:842です[sage]:05/02/15 16:24:59 ID:fnx7de2J
196さま
コメントありがとうございます! 「一人どん底千秋」にウケました。
自分で穴を掘って、その中でウジウジしているイメージにぴったり!
ミルヒーに「のだめの方が千秋よりも大人」と言わせましたが、
私の中ではコレ、確定事項なんです(笑)
いや、千秋大好きなんですけれども。

まだまだネタはたくさんありますので、また文章にできたら
投下したいと思います。
それでは、いったん名無しに戻ります。

198 名前:二人のコンチェルト 13[sage]:05/02/15 19:00:21 ID:npdW6awh
最後の一音が響きを失った後、静寂が会場を包んでいた。
普段なら湧き上がる歓声はそこにはなかった。
だが千秋にはそんなことはどうでもよかった。
指揮台を降り、ピアノに駆け寄る。
のだめの微笑み。うなじから頬を伝う一筋の汗。
抱きしめたいという強烈な欲求を千秋はねじ伏せた。
手を差し出す千秋に応えてのだめが立ち上がる。がたーん。椅子が揺らぐ。

ううっ・・ううっ・・・
嗚咽が響く。会場を数え切れない嗚咽が包んでいる。
「奇跡の35分間」が終わった。
精神を揺さぶり、魂を震わせた35分間。千秋とのだめの演奏は聴衆から言葉を奪っていた。
果てしない感動は浅薄な賞賛を拒絶した。そして、静寂。嗚咽。

峰の瞳に二人が写っている。だが、一向に焦点が合わない。
涙は演奏の途中でとっくに枯れていたのだが。
清良は顔を両手で覆い、席上に突っ伏したままだ。
会場を包む静寂に峰は強烈な衝動に襲われた。――――ダメだ、みんな――――
峰が立ち上がった。
「千秋―!のだめー!ぶ、ブラヴォーーー!!」
「えっ?」
その声に固く手をつなぐ千秋とのだめが観客席に振り返った瞬間だった。
「BRAVO―!!!」
聴衆は峰の声に我に返った。そしてようやく思い出したのだ。
二人そしてウィルトールに限りない賛辞の声を送ることを。
聴衆がその奇跡、まさに神が降りてきた演奏に贈った歓喜の声。それはすでに絶叫だった。


199 名前:二人のコンチェルト 14[sage]:05/02/15 19:04:29 ID:npdW6awh
「ううっ」
真澄は抱き合って泣いていた。
―後ろの席の聴衆と。
まるで昔からの友人のように、感動を共有し、かたく抱きしめてあっていた。

「・・・・・先生」
オクレールの傍らでのだめに初見を教えた女性教師は溢れる涙を拭う。拭っても拭っても涙が止まらないのだ。
そして身体を包む震え。本当にあの子なの?本当に・・・
オクレールが余韻を楽しみながら舞台に向かって呟いた。
「ベーベちゃんを神サマが連れて行ってしまったね」
涙を拭いながら女性教師が微笑んで言う。
「ベーベちゃん、ですか?」

千秋に促されてウィルトールのメンバーが立ち上がる。惜しみない賛辞はウィルトールへのものでもあった。
どの表情にも笑顔が溢れていた。それはウィルトールが「世界のウィルトール」となったことへの喜びでもあった。ロランは潤む瞳でファゴット席を見る。
そこには俯いて涙を流す彼女がいた。

「ミナコ」
「?」
「私はまた、オケに戻ってみたくなった」
「オケに?」
「一生で、一生でもう一度だけこのような演奏に舞台で立ち会ってみたい」
ふふっと笑って理事長は涙を拭いていたハンカチは顔から外した。
「だそうよ、シュトレーゼマン?」
「オー、スバラしい。早速、事務所に連絡しまショウ」
「だ、だれがこいつとなんか演るかーーー!」
カイにとって不幸だったこと。それは真後ろの席にエリーゼが座っていたことに気がつかないことだった。

10分、20分と経っても歓喜の声は止まなかった。用意されていたアンコールの曲は当然、演奏されることはなかった。
この時間そして余韻が終わることを惜しむすべての聴衆にとって必要のないものだった。


200 名前:二人のコンチェルト 15 [sage]:05/02/15 19:06:10 ID:npdW6awh
 千秋が再度、のだめの楽屋の扉を開けた。
「ちょ、チョット待ってくだサイ!」
のだめは衣装を着替えている最中だった。ワンピースの大きく空いた背中からあせばんだ白い肌と黒いレースの下着が覗く。胸がどきりとする。・・・・・夫婦だっつーのに。
「のだめ」
背中のファスナーを上げてやりながら、千秋が聞いた。
「ナンですか?」
「おまえ、演奏中なにを考えた?」
「演奏中ですか〜?」
宙をにらみ、のだめは考える。
「ん〜夜ごはんかな〜」
こいつーーーー!
「先輩は何を考えたんデスか?」
「オレは・・オレは」
のだめの肩に手をかけて千秋は言った。
「この時間が・・・この時間が永遠に続けばいい、そう思った」
そのときのだめがくるりと振り返って千秋の頬にキスをした。ぶちゅん。相変わらずの「タメ」のなさ。でも、柔らかな感触。化粧の香りと微かな汗の匂い。
「のだめ、ウィルトールとがんばりましたヨ。先輩を神サマのところに送っていったんですヨ」
ばーか。
「えっ?」
今度は千秋がのだめの頬へキスを送る。そして後れ毛を耳へ戻してやりながら言った。
「神さまが連れていったのはオレとオマエだ。覚えとけ」



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